7
翌日。
涼宮透は母親の千春から言われるがままに、隣人に引っ越してきた子のお土産のお返しの品を鞄に入れて持ち、学校に登校する。別に玄関前で一緒になることもなく、あくまで初対面は学校の中で。一緒に登校などしてしまって、根も葉もないうわさを立てられるよりはマシではあった。
隣人の名前は毬本澪。千春の言う通り、駒野場高校1年生であり、1-Aの同じクラスの女子生徒だった。
「まあ、どこかのタイミングで他の人にばれないように渡せればいいか……」
彼女も自分の様な男子と隣人だとクラス中の話題になるのは避けたいだろうと思い、透は多くの駒野場生が登校する正門を潜った。
すると駐輪場に自転車を停め、同じタイミングで校舎に入る友人の姿があった。
「おう、涼宮」
御子柴達樹だ。
「おはよう、御子柴」
透と達樹は階段を登り、廊下を歩いて1-Aの教室へと向かう。
達樹は隣を歩きながら、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、昨日言えなかったんだが、次の決勝戦の相手の陽光白崎高校サッカー部に、俺の中学の知り合いがいるんだ」
「御子柴の友達?」
確かに昨日の練習の途中、何やら達樹が監督に呼ばれていたのを思い出す。
透が何の気なしに訊くが、達樹は遠くを見ているようだった。
「友達、なのかな……。わからないけど、同じサッカー部で、同じピッチで一緒に戦ってたやつだ」
「ポジションは?」
「CFだ。でも、なんでもできるオールマイティープレーヤーだ。名前は神宮司奏多」
「格好いい名前だな」
透は前を向いて歩きながら、思ったことを素直に口にする。
達樹はそんな感想を述べる透に半分微笑み、半分緊張感を宿した面持ちでいた。
「正直言って、中学の時からアイツのレベルは違っていた。そして陽光白崎は、ここら辺じゃ有名な強豪校だ。去年は北平も倒している。今までとはレベルが違う試合になるだろうな」
3年間サッカーから離れていたためやはり地元の強豪校と言う括りは身に覚えがないのだが、達樹が忠告するように言うからには間違いないのだろう。それと同時に、透はとある疑問が浮かんできた。
「御子柴は逆に、どうして駒野場高校のサッカー部に来たんだ?」
「え?」
「その神宮司奏多と一緒に、サッカー強豪校の陽光白崎でサッカー部に入る選択肢もあったんじゃないのか?」
これもなんの気なしに訊いていた透である。
周囲の生徒が朝の挨拶を交わしながら笑顔でそれぞれの教室に入っていく中、達樹はその場で立ち止まり、窓の外を見つめているようだった。
「そうだな……。きっと俺は、証明したかったんだ。自分の実力を」
どこか懐かしいものを見るような面持ちで、達樹は答える。
「柳瀬川第七中サッカー部にいた頃は、神宮司にボールを渡せばそれで試合に勝てた。神宮司以外の俺たちは、アイツのオマケみたいな存在だった。だから、高校はアイツとは違う道を選んで、自分の実力を証明したかったんだ」
「なるほど……」
透はあごに手を添え、達樹と同じくその場に立ち止まり、しばし上を向いた後、おもむろに達樹に振り向いた。
「御子柴の上手さは一緒にプレイしてる俺もわかるし、そんな事しなくても十分に証明できてると思うけどな。でも、前の試合の入りにも言ったけど、俺はお前と一緒のチームで良かったと思ってるし、お前とサッカーやれるのは、楽しい」
「お、お前……っ」
まだ朝だと言うのに、なぜか夕日に染まったように顔を赤くする達樹に、透はきょとんとしていた。
「もしかして、照れてるのか?」
「う、うるせぇ! お前はラノベの鈍感系主人公かよ……」
「ら、ラノベ……?」
聞きなれない単語に首を傾げるのと同時に、そういえばと、透は思い出したことがある。
「そうだ、御子柴。ちょっと聞きたいんだけど」
「ん、どうした?」
「仮に御子柴が女の子にプレゼントを渡す時って、なんかすることってある?」
「な……っ!?」
なぜか達樹が驚愕の面持ちで、透をじっと凝視する。
「お、お前もしかして、彼女、いるのか……!?」
「いや、全然」
「でも女の子にプレゼントって……」
「お土産貰ったから、お返しであげないとって、お母さんに言われて」
「お土産貰う関係って、つまり、そういう事だよな……!?」
「もしかしたらそういう事なのかもしれない」
そういうこととはどういうことなのだろう、と頭の中で思い浮かべつつ、透は殆ど無表情で頷く。
引っ越しのお土産のお返しなのだから、なにも間違えたことは言っていないと思うのだが。
「ご、ごほん。そ、そりゃあお前、女の子にプレゼントするってなったら、高級レストランで、スーツを着て、シェフに頼んでだな。あ、あとベンチに座るときに、ハンカチを、敷いてあげるとか……か?」
あたふたと、両手でへんてこなジェスチャーをしつつ、達樹が必死に説明してくる。
そんな壮大なものではないと思うのだが……どうやら、聞く相手を間違えていたようだ。




