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その日の放課後、サッカー部の練習はスタメン組を中心に下校時間ギリギリまで残る者もいた。駒野場高校指定のジャージに着替え、エナメルバックを肩に、急いで帰路につこうとしているサッカー部員の面々たちを正門前で待っていたのは、意外な人物だった。
「お前、扇大高校のキャプテンか?」
サッカー部の集団の先頭を歩いていた度會は、夕日をバックに立っている同年代の男の姿を見て驚く。
度會自身は戦えていないが、紛れもなく扇大高校のサッカー部キャプテン、桜井が立っていたのだ。制服でもジャージでもなく、私服なのは私立校の特権か。
「駒野場サッカー部のキャプテン、度會だよな?」
桜井は度會を一目見るなり気づき、近づいてくる。そして何をするかと思えば、深く、頭を下げてきた。
「え?」
「すまなかった。俺たちの監督……いや、もう監督とは呼べないな。監督だった毒島が細工していたんだ」
「「「ええ!?」」」
桜井の告白に、事情を知らされていなかった度會を始めとする駒野場サッカー部たちは驚愕する。昨日の放課後、サッカー部の活動のタイミングで、警察と市役所の人が扇大高校にやってきて、サッカー部の監督だった毒島を事情聴取のために任意同行をした。そして警察の説明によって、今回の毒島の悪事が扇大サッカー部の面々に告げられたようだ。
「あの試合で仮に俺たちが勝っていたとしても、そんなのは絶対に許されない……」
「結果的に勝てたし、みんな軽症だったからよかったが……。逆にお前たちのサッカー部は大丈夫なのかよ? 下手すりゃ活動禁止とか、廃部レベルだろそんなの……」
度會は逆に桜井を心配するように声をかけたが、桜井は申し訳なさそうな表情をしたままで、頷いていた。
「その後の校長先生の話によれば、なんでもその毒島の悪事を告発した人の匿名の依頼事項で、扇大サッカー部そのものは廃部にはしないように取り計らってくれたらしい。あくまで毒島の独断専行であり、知らなかった俺たちには非はないと。結果的に次の公式大会の出場停止だけで許されはしたけど、どうしても謝らないとと思ってさ……」
「扇大市からここまで遠かっただろ。俺は全然問題ないぜ。今度はこんな正門前じゃなくてフィールド上でリベンジしてくれ。言っておくが、スタメン組はもっと強いからな?」
度會はそう桜井に笑いかけ、彼を始めとする扇大サッカー部を許す。度會の後ろに立つ数名のサッカー部員も、度會と同じように桜井を励ます声を掛けていた。
桜井は目に涙を浮かべているようだったが、それを吞み込んで今一度深く頭を下げていた。
「ありがとう、駒野場サッカー部のみんな。お前たちこそ、絶対に県大会出場してくれ」
「おう。お前たちも頑張れよ。練習試合でもいいからやろうぜ」
「うん……」
しかし、なおも落ち込んだ様子を見せている桜井に、度會は苦笑しつつ肩に手を添えてやる。
「そんな落ち込むなって」
「いや……。それとは別にもう一つあるんだ……」
「もう一つ?」
度會が首を傾げると、桜井は自身のスマホを取り出し、画面を見せてくる。
そこには動画投稿サイト、GoTubeの画面があり、この1件がネットニュースとなっている動画がアップされていた。
「なんだ、これ?」
「今回の件だ」
「じゃなくて、なんだこれ」
度會がきょとんとして、そのスマホの画面をまじまじと見ている。まるで原始人が、初めて火を見たような佇まいに。
「え……?」
要領を得ない桜井がきょとんとしていると、度會の後ろに控えていた三國がぼそっと口を開く。
「度會は、ガラケーしか使えないんだ」
「嘘だろこの令和の時代に?」
「う、うるせ! 電話なんてメールと電話できればいいだろ!」
三國の告白に唖然とする桜井と、顔を真っ赤にして否定する度會だった。
「スマホ買わないの……?」
「中学の時は持ってたけど……その……使い方がよくわからないんだ……」
「……」
桜井が思わず笑いそうになってしまったのを、先程の謝罪の件もあり、どうにか堪えようとしている。
「ええと、じゃあ、GoTubeも知らないのか……?」
「ごーちゅーぶ……? 筋トレ道具か……?」
「……ぶは」
とうとう堪えきれず、桜井が吹き出した。
度會と無表情の三國を除く駒野場サッカー部も、桜井と同じように我慢できずに笑い出している。
「……っ」
味方がいなくなった孤高のキャプテンは、ぷるぷると身体を震わせていた。
「それで、いったいなんだ!? そのごーちゅーぶってのは!」
自身の疎さによる恥辱を誤魔化そうと、度會が顔を真っ赤にして聞き返す。
「あ、ああ……。もちろんこの1件はすぐマスコミが察知して、ネットを中心に大事件になってて、相当なバッシングを受けているんだ。それ自体はその通りだし、仕方がないと思ってる……」
桜井は画面をスクロールし、スマホの画面を切り替える。
次第にその表情は愁いを帯び、どこか切なそうに、また別の意味で目に涙を浮かべ、
「でも……猫芝けまりちゃんにまでバッシングされちゃうなんて……っ! うわああああん!」
「……ね、ねこしば、けま、り……?」
度會がきょとんとしていた。




