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全体練習の途中。水分補給をしにやって来た御子柴達樹に、同じ中学校出身であり、次戦の相手校に所属する同級生、神宮司奏多の事を尋ねてみる、鷲田。
紙コップの水をごくりと飲み込み、あご下から汗を垂らす達樹は「神宮司は知ってます」と短く答えていた。
「同じ中学校で、サッカー部でした」
「ユースじゃなくて、部活だったんだ」
U-15クラスの逸材であればよくあるのは中学の部活ではなく、浦和や大宮と言ったJリーグクラブのユースに所属しているものだが、あくまで普通の中学の部活に、達樹と共に所属していたという。
「はい。理由は後で言いますが、とにかく滅茶苦茶やべぇ奴で、何もかもが俺より上です。ゴールへの嗅覚、状況把握力、攻守の切り替え。周囲からは和製メッシ、なんて言われてましたが、俺からすれば正直メッシ以上だと思ってます。守備も徹底的に手を抜きませんからね」
「御子柴くんがそこまで言うとはねぇ。なんで中学の部活なんだろ。確かに柳瀬川第七中は強いけどさ」
鷲田が改めて尋ねると、達樹はやや芳しくない表情を浮かべていた。
「人格もまったく問題ありません。入団テストに行けば即合格だったでしょう。ただ……」
達樹は一息、ため息の様なものを零してから、再度口を開いた。
「本人にやる気がないんです。いや、表面上は真面目に戦って、サッカーを楽しんでいるようにしてみせているんですが、心の奥ではサッカーを嫌っている」
達樹の口から出た衝撃の発言に、鷲田も神楽坂も一瞬だけ言葉を失っていた。しかし何よりも間近で彼を見ていた達樹がそういうのだから、間違いないのだろう。
「……うーん。これだけ才能に恵まれているし、将来も約束されているようなものなのに、なんでだろうね」
「中学の時、俺も聞きました。冗談交じりですが、なんでお前みたいなやつが普通に部活にいるんだよって。アイツ曰く、キツイ練習が嫌だとは言っていましたが……」
「それなのに再び強豪校の陽光白崎に入学して、サッカー部所属。そこもまた謎ですね……」
神楽坂もあごに手を添えて首を傾げているようだ。
「そんなキツイ練習が嫌だったら駒野場来ればよかったのに。アットホームな環境だよ?」
「ははは……。普通にハードワークな練習してますが……」
達樹は苦笑していた。
「まあ遅かれ早かれ次の試合で当たることになる。御子柴くん的にはどうだい? 試合で相手として戦えて嬉しいか、それともまた一緒に仲間で戦いたかったか」
鷲田にそう問われると、達樹はやや間を置いてから、そっと口を開く。
「俺は……――」
その瞬間、後ろでコーンっと、何かが金属にぶつかるような鈍い音が響く。
何事かと三人が振り向くと、ゴールポスト前でおでこに手を添えて叫ぶ、蓮見翔の姿があった。
「わー!? 蓮見くんが、ゴールポストにぶつかった!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫大丈夫……じゃないかも、痛いーっ!?」
遥人が上げたクロスのボールを追いかけて宙を見上げたまま走り、ゴールポストに真正面からぶつかった様子の翔に、あたふたと慌てる遥人。
「大丈夫かー?」
そんな二人の後ろから、透が駆け寄って声を掛けている。
「脳撃った、俺、馬鹿になっちゃうかも……」
「大丈夫だお前はそこまで元から賢くない」
「慰めてくれてるつもりだけど、ひ、ひどい……」
などと、透と頭を押さえる翔が言っている。
「あ、えっと、大変です。すぐに見てきます」
神楽坂が翔の容態を確かめに向かうのを視線で追いつつ、達樹はやれやれと肩を竦める。
それが答えなのかもしれない、と鷲田はそれ以上の詮索をいったん止めるのであった。




