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試合終了後、両校の選手は中央に整列したのち、握手をする。そこではお互いの健闘を素直に讃え合う、誇り高き両校イレブンの姿があった。
「1年なのに、凄いな。正直、俺たちが負けるとは思っていなかったよ」
「あの時、絶対ゴールライン割ってたと思い込んでた俺たちの負けだな」
悔しさをにじませつつであるが、扇大高校の選手たちからはバトンを託すと言わんばかりに、力強い握手を交わしてくる。
「ありがとうございました!」
「雪乃、血出てるぞ!?」
「え、気が付かなった!」
無事に2回戦を突破した駒野場イレブンに、ほっと息ついた鷲田もまた、相手校の監督である毒島と形式上の握手を交わしに向かっていた。
「いやー一時はどうなるかと思いましたが、ありがとうございました!」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
鷲田は次いで手に力をこめて、そっと毒島の耳元に、自身の口を寄せ、
「棄権した方が良かったのは、あなた達だったかもですね?」
「おのれ……!」
そして次には、和やかな声音から一転、底冷えするような、冷ややかな声音で、
「一つ言っておく。扇大高校の選手に罪はない。だから、駒野場も正面から正々堂々と戦った。アンタはサッカーを裏切った。絶対に許されない」
「な、なんのことかな……!?」
「……せめて、自分たちの選手は守るんだな」
そして鷲田は最後に「そんじゃあね」と、ニコッ、といつものように食えない笑顔に戻り、手を軽く振って背中を見せていた。
「……っ」
毒島は握っていた手をグーパーしつつ、一瞬だけ豹変した鷲田の様子を見送っていた。
固い握手を交わした後の鷲田は、見事に2回戦を突破した駒野場イレブンたちを集合し、声を掛けていた。
「まずはお疲れ様。そして2回戦突破おめでとう。紛れもなく君たちのおかげで、こんな緊急事態でもしっかり勝ってくれて、ありがとう。帰って今日はゆっくり休もう」
「「「はい!」」」
試合後のロッカールームでも、興奮冷めやらぬ様子で翔が、今日のスーパープレイを自慢していた。しかし悲しいかな、それを証明する観客が、いないのだ……。
それでも、サッカー部員の記憶には強く刻まれている。
「あそこから強引にバイシクルとか、さすが蓮見だな」
「めっちゃ相手がユニフォーム引っ張ってきてて、もうそれ引き剥がそうと思ってたら宙跳んでて――って、涼宮どうした?」
「ちょっとトイレに」
早々と着替えを済ませていた透が、ロッカールームを後にしようとしているのを翔が気付いたが、透は急いでいた。
「あ……ぼ、僕もトイレ!」
同じく着替え終えていた遥人もまた、透の後を追っていた。
「――涼宮くん!」
後から追いかけるようにしてきた遥人の声に、透は立ち止まる。透が向かっていたのは、駒野場高校のマイクロバスが停まっている駐車場だった。来た時に見た、工場に停まっていたという高級車の元まで、向かっていたのだ。
じゃり、じゃり、と二人の砂利を踏む音が響く中、歩いてその車へと近づいていく。そして車のタイヤをじっと見ると。
「これって……」
「間違いない。俺が噛んだガムだ」
「そ、それじゃあ……」
「うん。間違いなくこの車は、あの工場に来ていた」
もちろん正確なDNA検査でもしなければ、本当にこれが自分が噛んだガムかどうかは分からないだろう。でも、もし捜査に協力してほしいと言われれば、透は協力するつもりでいた。
そして透はスマホを取り出し、その車の写真と、タイヤにこびりついたガムの写真を収める。
そうしていると――。
「なにをしている?」
どきりと、心臓が止まりかける。二人が気付かないうちに後ろから、扇大高校のサッカー部監督、毒島が歩いてきていた。まだ選手は着替えている最中だろうが、もう帰る気なのだろうか。
「え、えっと……っ」
あわあわしだす遥人に対して、透は冷静であった。
「車に興味があって。凄い高級車だなって。将来、プロサッカー選手になったら乗ってみたいんです」
「ふん。君たちのような無名な高校からプロサッカー選手を目指すつもりか」
「……才能に高校は関係ないと思います。本人のやる気と、努力次第だと、思っています」
「……」
毒島の嫌みにも冷静に答える透の後ろで、遥人も無言ではあるが、こくりと頷いていた。
一方で毒島はどこまでも面白くなさそうに、ふんと鼻を鳴らすのであった。
「どいてくれないかな? 車が動かせないんだが」
「このくるまはあなたのくるまだったのですねおうぎだいこーこーのかんとくさん」
(ここに来てすっごい棒読みだ―!? 大丈夫涼宮くん!?)
内心でイナズマが落ちたように、急に棒読みになる透に、遥人が人知れず身悶えする。……どうやら、あの日に演技をしたのは遥人の方で正解だったようだ……。
急に棒読みになった透と、口に手を当てて何やら悶絶している様子の遥人に、毒島は小首をかしげていた。
「? その通り、私の車だが?」
「そうですか。今日はありがとうございました。俺もこんな車に乗れるように頑張ります」
「ふん。精々頑張り給え」
毒島は車に乗り込んでいた。この様子だと、盗撮していたことはバレていないようだ。
毒島の車が駐車場を出て行ったあと、透と遥人は共にふぅと息をつく。
「まさか相手校の監督だったなんて……。その写真と証拠、どうするの涼宮くん?」
「……ふさわしい人に渡そうかなって。信頼できそうな人に」




