32 駒野場高校 2:1 扇大高校
オーバーヘッドシュート。バイシクルキックとも呼ばれるそれは、サッカーに於いて最も難易度が高く、成功確率も決して高くはない。優れた身体能力と、空間認識力と、少しばかりの運によって成功する難しいシュートを、蓮見翔が成功させ、見事に駒野場に逆転の1点をもたらした。
「よっしゃあ!」
「よくやった、蓮見!」
「ナイスナイス!」
スーパーゴールを決め、集まって来た駒野場イレブンにもみくちゃにされる翔であったが、次の瞬間、ゴールライン付近に立っていた雪乃遥人に向けてグッドポーズをする。
「ナイスパス雪乃! お前ならやってくれるって信じてたぜ!」
「え、あ……」
バクバクとなる心臓は、まだ落ち着きを取り戻せていない。本当に、点が決まったのか、夢見心地のようだ。
ベンチを見てみると、鷲田が笑顔で拍手をしており、一緒に座っていたベンチメンバーや、自分と交代した仲間が喜び合っている。続いてピッチの方を見ると、自陣奥深くに立っている透も、手を掲げてグッドポーズをしているようだ。
「アシスト、したんだ……。僕が……!」
「よく諦めないでボールに喰らいついたな、雪乃」
御子柴達樹も駆け寄ってきて、とんと肩を叩いてきた。
「もう、なにがなんだか。ただ夢中で、必死で、ボールを中にって……」
「ナイスガッツだ。怪我はしてないか?」
「大丈夫。割ってなかったんだよね、ボール……」
「おう。審判も入ってるって言ってたし、ちゃんとゴールだ」
なぜか確認するように聞く遥人に、達樹も真剣な表情で頷く。
「しっかしまあ、蓮見のやつ。俺の1点が台無しになるみてぇなとんでもねぇゴール決めやがって……」
「蓮見くんの運動神経は、凄いからね……」
「お前の足の速さも負けてねぇと思うけどな。ナイスランだったぜ」
達樹はどこか悔し気に、しかし笑いながら、翔を見つつも、遥人を労っていた。
「――何やってるんだ!? 相手は控えメンバーだらけなんだぞ!? 逆転されるなんて何事だ!?」
駒野場の歓喜の瞬間を打ち消すほどの、相手校の監督である毒島の大きな怒鳴り声は、観客がいない試合会場にはよく響いた。
扇大イレブンは項垂れつつも、毒島のいう事を聞いていた。
「あれを見ると、俺たちのワシ監督が天使に見えてくるな……」
やれやれと達樹が肩を竦めている。
「うん……」
あんな不正まがいなことをしてまで、それでも選手に求めるものは求め続ける。
遥人はどこか切ない思いを抱きつつも、気持ちを切り替える。今はこの試合に勝って、自分たちの正しさを証明し、サッカーを守らないと。
「後半はまだ続いている。絶対に勝とう」
気合を入れ直すため、擦り傷がついた頬を両手でぱんと叩き、遥人は達樹に言う。
いい気合いだ、と達樹は頷き、自陣まで共に引き上げていくのであった。




