31 駒野場高校 1:1 扇大高校
自陣奥深くのサイドで、涼宮透からボールを受け取った雪乃遥人は、ドリブルを開始する。
右サイドを駆け上がる遥人を見て、それに合わせる動きをしたのが、御子柴達樹であった。前半での活躍から激しいマークに晒されている達樹が中盤まで下りてきて、遥人のパスの受け手となるような動きを見せる。
相手のキャプテン、桜井はそんな達樹の動きを見逃さない。
「渡すか!」
桜井は達樹と競り合う形で猛ダッシュを行い、達樹の行動を防ごうとする。
「っく!」
「御子柴くん……!?」
サイドを駆け上がる達樹と目と目が合う。そして視線は、彼の口元へ――。
――走れ。
口の動きは、確かにそう言っているように見えた。
「っ!」
それでも、遥人は達樹にパスを渡そうと、一瞬だけ停止。
その動きを逃さないのが、サイドに張っていた相手MFだ。ここぞのタイミングでタックルを行い、遥人からボールを奪おうと突進してくるが。
「このっ!」
遥人は達樹へのパスを急停止し、パスをするかと見せかけたフェイントを行い、自身と共に再び縦に、タッチラインギリギリを攻めるドリブルを敢行。達樹へのパスを行うと踏んでいた相手MFはその動きに虚を突かれ、置き去りにされてしまう。
「なに!? 18番は囮だ!」
「はやいぞアイツ!」
「止めろ! DF!」
達樹へのマークに人員を割いていた扇大のサイド奥深くへ侵入した遥人は、一瞬、中央を見る。
蓮見翔――。こんな終盤にも関わらず走り続け、それでもなお元気いっぱい彼の姿は、相手DFの中でも目立っているようだった。
「蓮見くんっ!」
遥人は右足を大きく振りかぶり、高い弾道のクロスを上げようとする。彼のゴールへの嗅覚と身体能力であれば、頭で合わせればヘディングシュートを決められるように。
――しかし。
(しまっ!?)
自分の技術不足が、それを容易に叶わない現実を知らせてくる。
高く打ち上げようと思ったボールは上手く上がってくれず、低い軌道のグラウンダーパスになってしまった。また、蹴った自身も身体の勢いを殺しきれず、よたよたとまるで高齢者のようにふらふらな足元となり、前に向けて倒れるようにして転んでしまう。
ずしん、と全身に奔る激痛。受け身を取ることもままならず、芝にダイブするように倒れたのだろう。途方もない痛みが襲い掛かってきている。
それでも遥人は痛みを堪え、とっさに顔を上げる。
「落ちたぞ!」
「コーナーだ!」
グラウンダーの軌道のボールは相手DFにカットされ、跳ね返ってきていたようだ。
転び、視点が低くなった自分の視界の右隅で、跳ね返りでスピンがかかったボールがゴールラインを割ろうとしている。
――まだ、割っていない。チャンスはある――っ!
「まだだ……っ!」
痛みを堪え、咄嗟に立ち上がった遥人は、再度走り出し、間に合わないと思われたボールに喰らいつくようにして追いつき、今一度顔を上げる。ボールはゴールラインぎりぎりの、白線の上だ。
「お、おい――!」
何人かの相手選手が、こちらを見て気づいたような声を上げる一方で、相手GKはまだ気づいておらず、味方DFに懸命に指示を出している。
チャンスは、今しかない!
ずきずきと痛む身体そのままで、遥人は思い切り、すくい上げるようにボールをゴール前に向けて蹴り上げた。走りながらではなく、停止した状態。ボールの中心点よりやや下に接触したスパイクの側面から放たれた弾道は、鮮やかな曲線を描いて、今度は思い通りのところに行ってくれた。
「っ!」
そこで待っていた翔が、気づいた様子のDFと競り合いを繰り広げる。
ここへきてようやく、扇大全員が、ボールがまだゴールラインを割っていなかったことに気づき、陣形を咄嗟に立て直す。
「この、引っ張るなーっ!」
ほとんど身体を押されてしまっていた翔だったが、おもむろに身体をゴールに対して背中を見せるようにする。その変な動きに一瞬だけ気を取られた扇大のDFだったが、まさかと、思わず身構える。
「おりゃあーっ!」
翔は両足を空中に投げ出すようにすると、まるで透明な壁があるかのように、地面対して平行に身体を逸らしながら両足を交互に持ち上げる。そしてボールが落下してきたタイミングで、右足を勢いをつけて持ち上げると、空中に浮いて逆さの姿勢の状態、所謂宙返りの姿勢で、シュートを放った。鮮やかなオーバーヘッドシュートだ。
「なっ!?」
ヘディングシュートを警戒していた相手GKは完全にタイミングをずらされ、ほとんど動くことが出来ず、自身の真横にボールが吸い込まれていくのを見送ってしまっていた。
翔が一回転した両足で芝の上に着地したのと同時に、ボールはゴールネットを揺らす。駒野場高校が、2-1で逆転に成功した。




