30 駒野場高校 1:1 扇大高校
亘がセットしたボールを、思い切り蹴り込む。ボールはセンターラインを越え、相手陣地へ。
「っく!」
達樹がそれを回収しようとするが、相変わらず激しいマークにより自由に身動きが出来ず、ボールはあっという間に扇大が回収する。
「運べ!」
ボールは相手のオフェンス陣を経由して、瞬く間に駒野場サイドへと運ばれてしまう。
(みんな焦っている……まるで心の中で、自分のところにボールが来ないように祈っているのか……)
透は自身の周囲に立つ駒野DF陣の様子を間近で見て、内心で感じていた。
もし自分がミスをすればそれが責任となる。だからなるべく、逆サイドに行ってほしい。こっちに来ないでほしい。そんな根底にある思いが、プレイに迷いを生じさせ、結果的にディフェンスラインの崩壊を招いているようだ。
「行けっ!」
ドリブルで駒野場MFを躱し、扇大のFWは透の真正面まで迫りくる。
「……っ!」
透を一瞬だけ見るなり、相手FWはサイドに駆けだしてきた味方MFに向けてパス。
透はそちらを追わずに、なおも走るFWをマークしつつ並走しだす。
パスされたボールを受け取った扇大のMFは、SBとして遥人がいるサイド突破を目論んでいるようだが。
「はやい……っ!?」
遥人の見た目で軟弱そうだと判断したようであったが、相手が想定していたより遥人の走力は高く、あっという間に追いつかれてしまう。
「パス!」
コーナーサイド付近まで追い込まれた味方を見るに見かね、共に駆け上がっていた扇大FWが受けとなる動きを見せる。
遥人に追いつかれた相手MFは、遥人を引き剥がそうと緩急をつけたドリブルを繰り出すが、遥人は転びそうになりかけながらも、身体を踏ん張らせ、どうにか食らいついていた。
「くそっ!」
たまらず突破を諦めた相手MFは、やってきた味方FWにパスを出すが、それを読んでいたのが透だった。
「なっ!?」
完全に気配を消していた透は、急に相手の視界いっぱいに広がるように身体を前進させ、相手FWの目の前に出現。パスをカットし、マイボールにしてみせる。
「こいつ一体どこから!?」
「雪乃!」
ボールを奪取した透はワンタッチで遥人に向けてパスを出す。
まだ相手に張り付いているタイミングでの、スルーパス気味の軌道ではあったが、遥人はそれに反応。伸ばした足先で受け止めて見せる。
(すごい……! ピッタリのタイミングだ!)
自分がこれから行いたいこと、やろうと思っている行動。それを先読みしたかのようなコースのパスに、遥人は内心で驚いていた。
「走れ、雪乃! 後ろは気にするな!」
透の叫び声に呼応するように遥人は、意識と視線を真正面に集中させる。
遥か彼方に見える相手陣地のゴールポストが、まるでマラソンのゴール地点のようだと錯覚しかける。しかし、いつものランニングとは違う。今自分の足元には、この試合に出場するすべての人が追い求めるたった一つのボールがある。これを相手に奪われ、失点するか、それとも前線に運び、得点するか。今この瞬間、そのかじ取りは自分の二本の脚が担っている。
「僕は……っ!?」
ふと、頭に一瞬でフラッシュバックする、そう遠くない過去の記憶。学校の体育の授業のサッカーの時、涼宮透との会話のシーン。
――僕は痛いの嫌だから、適当に流そうかなって。
――うん、俺もそんな感じ。
最初は自分と同じように、流して、惰性でプレーしているかのような印象だった彼。でも本質は違った。後半の彼は、サッカーを心から楽しんで、全力でプレーをしているようだった。それからサッカー部で毎日練習に励むクラスメイトの彼らの事を見て、こんな自分でも、何かに全力で取り組もうと、思う事が出来た。まずは自分自身を変えようと、早朝のランニングも行って来た。
どうせ自分は何をしても駄目だと思っていた高校の春、自分は確かに、変わりつつある――!
「駒野場サッカー部の一員なんだっ!」




