29 駒野場高校 1:1 扇大高校
後半開始から数分後、両校選手交代が行われる。扇大は1人、FWの選手交代。
一方で駒野場は2人。まずは右SBの井上と代わり、雪乃遥人が投入される。
(雪乃!? しかもSB……?)
GKのキャプテン、亘が思わず二度見する。試合の中でようやく整いかけていたディフェンス陣を、ここに来て変更する采配が、よく分からなかったのだ。オマケに彼は最近入部したばかりの新人だ。本人のやる気は認めるが、はっきり言えば、数合わせのような存在だと思っていたのだが――。
そんな事を逡巡していると、2人目の交代選手もピッチに入ってくる。涼宮透だ。
(涼宮って事は、トップ下か? 守備を捨てて一か八か攻める気か……!)
その分は、駒野場の守護神のこの俺が、抑える!
人知れずそう意気込む亘の元まで、透がやや駆け足で、駆け寄ってくる。
「涼宮……トップ下だろ?」
「いいえ」
首を横に振る透に、目を瞬かせる。
「アンカーです」
透はそっと、ピッチ上を指さし、自分のポジションを伝えた。MFのポジションの中でもCBに近い位置につき、DFとしての役割を大きく担うポジションだ。
「アンカー!? やれるのかよ?」
「やるしかないです。駒野場が勝つ為には」
透は勝利のために、鷲田から言われたこのポジションを引き受けていた。本当の事を言えば、あまりやることのないポジションであるし、激しいブロッキングが求められるこのポジションを遂行できるか、はっきりと首を縦には振れない。
「あとは信じてます、亘先輩。今の駒野場の最後の砦は間違いなく、亘先輩ですから」
「お、おう……! そこは任せてくれ!」
前半開始早々の弱気とは打って変わり、試合を通して急成長して自信をつけた駒野場の控えGKは今、最も頼りがいのある守護神として昇華した。
あとは、SBの遥人も――。
しかし今の彼は傍から見てもわかるように、ド緊張しているようだ。遠目から見ても身体は小刻みに震えており、足がガクガクしているようだ。翔や達樹は初戦ながら、それぞれ謎の自信と経験で落ち着きをもって北平との公式戦に出場していたが、本来はああいう姿こそが、初戦を戦う1年生の正しい反応なのだろう。
「雪乃ーっ!」
そう思っていると、翔が前方から遥人に向けて声を掛けてきた。彼はあれほど走り回っていると言うのにまだまだ元気そうで、その場でぴょんぴょん跳ねている。
「は、蓮見くん……?」
「何とかボール飛ばしてくれーっ! そしたら俺、決めっからー!」
「え……」
「頼むぞーっ! 御子柴がもう無理そうだからー!」
「誰が無理だテメーっ! 俺はまだやれるぞーっ!」
同じ1年生同士のやり取りに、遥人は思わずふっと微笑んでいた。それがやや少し、彼の緊張をほぐすことになったのは、彼自身の未だ知ることのない事であったのだが。
主審の笛が吹かれ、試合は駒野場のゴールキックから再開する。




