28 駒野場高校 1:1 扇大高校
ハーフタイムを終え、後半戦が開始した。
両チーム今のところ選手の入れ替えはなし。扇大のフォーメーションは可変式で、相変わらず5バック気味となっており、想定通り達樹には前半以上に厳しいマークがつくことになる。最低二人が、達樹にはマークが付くようになっているようだ。
ディフェンスをしつつ、得点を奪う。現代サッカーに於いて当たり前の事が今の駒野場には満足にできない。
そんな中、鷲田は雪乃遥人に声を掛ける。
「雪乃。SBで入れる。アップしておいてくれ」
「え、え!? ぼ、僕ですか?」
「お前以外に雪乃はいないだろう」
「でも、せっかく安定してきたディフェンスラインに僕が入ったら、また組み立て直してしまう羽目に……。それに僕は、まだあまり練習も……」
などと、どうしても消極的になってしまう遥人に向かって、鷲田は彼の真正面に立った。
「わ、鷲田監督……」
やや驚く遥人に対し、鷲田は冷静だった。
「確かに、きみはまだサッカー部になってから日が浅いが、そんなことは関係ない。今この場所にいるのは漏れなく、この試合を勝つ為に集められた、選ばれた16人だ。寄せ集めでも、人数合わせでもない」
「……」
「それに、たった数日の練習でも、きみの努力は知っているし、監督である俺が保障する。臆せず、思い切りプレーしてくれ。サッカーが好きなんだろ?」
「は、はい……。見るのが、好きでしたけど……」
「じゃあこの試合で活躍して、やるのも好きになろう。サッカーは誰もがヒーローになれるスポーツだ」
鷲田はそう言って、ウインク混じりに微笑んで見せる。
「は、はい……! やれるかはわかりませんけど……精一杯やってみます……!」
ふぅと息を吐き、遥人は立ち上がる。彼の中で踏ん切りがついたように、その表情は緊張しつつも、やる気も確かに感じていた。
「涼宮」
続いて鷲田は、遥人の隣に座っていた透にも声を掛ける。
「涼宮。お前もアップを頼む。今日はトップ下じゃなく、別のポジションを頼みたい」
「――はい」
鷲田の指示に、透は頷いていた。
透と遥人はウォーミングアップエリアと呼ばれる、ピッチ外のボールを蹴って良い場所で、軽めのパス回しを行う。ピッチ上では、両校のイレブン同士が削りあい、ボールが鈍く弾む音が響き、選手の声とコーチの声が反響する。観客がいない試合ならではの、しかし公式戦と言う、独特の音だ。
「あ、またパスがずれた……ごめん、涼宮くん」
やはり遥人の動きはぎこちなく、単純なパス交換でも、コントロールできていないようだった。それは技術的な面の問題ではなく、やはり精神的な面によるもの。
「緊張してるのか?」
「う、うん。初戦が大事な公式戦で、しかもSBなんて……。もし僕が突破されちゃうと、一気に相手にチャンスを与えてしまう……」
確かにSBは攻撃の起点になると同時に、守備を突破されればサイドからいとも容易くピンチを生んでしまう、流動性があり、一番攻防が激しい場所と言っても過言ではないところだ。攻撃と守備、両方をこなし、かつ創造性の高いプレイを要求される難しいポジションであった。それが体育の授業ではサッカー未経験者に一番人気なポジションと言うのは、皮肉なことか。
「鷲田監督も言っていたけど、試合に勝つ為に、俺も雪乃も、ここにいるんだ」
「うん……。わかってる……。何よりも僕は、卑怯な真似をする扇大に、負けたくない」
「俺もだ。別の意味でもこの試合は、絶対負けられない。いや、負けるわけにはいかない」
そして透は、遥人に向けてパスをする。ボールはまっすぐ、ゆるぎなく迷いない軌道を描き、遥人の足元に収まった。
「安心してくれ。俺が雪乃の分までカバーする。思い切りプレーするんだ、雪乃」
「……うん!」
透からパスを受け取った遥人は、力強く頷いていた。




