7 奇数チーム 2:0 偶数チーム
後半戦の開始。
無きに等しいポジションに各々戻っていく間、涼宮透もまた、SBのポジションに戻っ
点差は2-0。負けている。
しかし、透は知っていた。
(逆転、か……)
このサッカーと言う競技において、圧倒的敗北の様相から華麗に逆転するあの心地よさ。まさか負けると思っていなかった相手やそのサポーターの驚くさま。その時に感じる、抗いがたい高揚感。
圧倒的点差で勝つ試合も心地よいものだが、それとは全く別のカタルシス。
「やってやるぞー!」
蓮見翔が意気揚々と、声をあげる。
不思議と、彼の言葉と仕草に強く惹かれている自分がいる。否定はしない。まだ絶対に負けを認めていない彼の背をじっと見つめ、透は小さく息を吸う。
「涼宮くん、なんか、笑ってる……?」
「え、そうかな」
それはほとんど、無意識の行為だった。
「うん。なんかさっきまで具合悪そうだったけど」
再び同じポジションに陣取る先ほどの男子から声をかけられていた。
そうか、そうであるのならば、そういう事なのだろう――。
透は翔の背中を見つめたまま「あいつのおかげで、なんか楽しくなってきたかも」と返す。
「あはは。蓮見くん元気があって、面白いよね」
「うん。とても良いことだと思う」
「はっくしょん!」
彼、翔がくしゃみをする。花粉症だろうか。
「そうだ。一つお願いがあるんだ」
続いて透は、そんな声をかけてきたクラスメイトに、思い出したかのように声をかける。
「どしたの?」
「一つだけお願いがあるんだ――」
やがて、後半戦が開始される。
サイドは変わり、キックオフはこちら側から。
翔がボールをドリブルして中央突破を試みるが、相変わらず団子状態の相手DFの壁が立ちふさがり、うまく突破できない。
たまらず後方へバックパスを行うが、そのボールをカットしたのが、御子柴達樹だった。
「よし!」
達樹はほくそ笑みながら、偶数チームのブロッキングを次から次へと躱し、前線へボールを運んでいく。
彼が進む道は単純明快。そしてそれを追うのが、奇数チームの面々。わかりやすいからこそ、追いやすい。
「3点目もいただく。これでハットトリックだ!」
彼の宣言通り、このまま行けば彼が再びゴールを決め、見事三点目を奪い、ハットトリックを決めるだろう。
透はそっと、彼の進行方向であるCBの位置へと、歩いて向かう。GK前の最後の砦とも言うべきそのポジションには、すでにやる気のない味方が立っているだけでおり、GKも止める気もないのだろう、ゴールポストに手を添えて立っているような有様だ。
「ふ!」
「っ!」
向かってくる達樹と、一瞬だけ目が合う。
その瞬間、諄い様だが再び心の中で自分に語り掛けてくるような、奇妙な声。
もう終わったはずなのに、しかしどうしてか、自分の脚は自然と動いていた。
達樹の身体が視界いっぱいに広がった次の瞬間、透の視線は一瞬だけ足元に向けられ、彼の右と左交互に動く脚を――捉える。
「はっ? えっ?」
右足をそっと前に出して、軽くタッチをするような感覚。
そして驚き戸惑う達樹の声と身体は、自分の斜め後ろへ。
まるで抜け殻のように、達樹の後ろへと姿は流れていく。
その瞬間、ボールは透の足元にあった。
「と、とられた? そんな!?」
なおも驚く声を置き去りに、透は達樹から奪ったボールを蹴り出し、前へと走り出していた。
「今、なにが……」
本当にとられたのか、再三自分の足元を確認する達樹であったが、やはりボールは透が奪い取っている。
「アイツ……一体……」
悔しそうに透の背中をじっと睨み、達樹は急いで反転し、透を追いかける。




