6 奇数チーム 1:0 偶数チーム
奇数チームに先制された偶数チームのボールから、試合は再び始まる。
偶数チームの実質的なキャプテンであり、サッカー部員である蓮見翔がボールを前線に運んでいくが、そこにうまくついていく味方は少なく。すぐにボールを奪われる。
そのたびに翔は「うわー!」「ちくしょー!」などと言った、いちいち面白いリアクションをする。敵味方チーム関係なく、彼がボールを持つたびに笑みが零れているようだ。
「本当に純粋にサッカーを楽しんでいるんだな」
涼宮透もそんな彼を見て、自然と口角を上げてしまう。
「おい、蓮見! サッカー部の意地を見せろー!」
体育教師であり、サッカー部顧問でもある鷲田純平のそんな声にも、翔は「はいっ! すんません!」と大きな声を張り上げる。
最初はサッカー部顧問の前という事もあって、目立つように声を張り上げて、真剣に取り組んでいるのかとも思ったが、どうやらそれも違うようで。
ただ真剣に、純粋無垢に、サッカーという競技を楽しんでいる。
それが蓮見翔と言う少年なのだと、透は直感していた。
そして無邪気にボールを追いかける、そんな姿はまるで、昔の――。
「……」
そこまで思い至り、透は小さく首を横に振る。そんなはずはない、今純粋にサッカーを楽しんでいる相手に失礼だと、透は詮無き思いを無に帰す。
試合は相手チームの御子柴達樹の活躍もあり、ほとんど一方的な展開になろうとしている。
大変申し訳ないのだが、蓮見翔と言う少年。確かに情熱もあり、他と比べれると経験者であり、サッカー部所属なりのプレイもしているのだが、はっきりと言うと……いや、かなり、下手な部類であった。
それでも懸命に前に前にと進もうとするが、言わば団子状態となった相手DFの集団を突破できず、またパスを通すこともできず、したところでそこで奪われ、相手チームは達樹にボールを渡せばあとは彼がすべてやるといったわかりやすく、単純明快な戦法でごり押しをしてくる。
そしてその戦術に見合う実力を、達樹は持っていた。
「おら!」
御子柴の放ったボールが、再び自陣のゴールネットを揺らす。
2-0になったところで、ホイッスルが吹かれ、ハーフタイムと言う名の5分休憩になった。
春先のしかし春に似合わない熱気。それをいの一番に宿す翔は、肩で息を切らしながら、ぜえぜえと息を吐く。
他の偶数チームの面々も、彼ほどではないが、にじむ汗を拭いながらグラウンド外のサイドで輪を作るようにしていた。まるで本当のチームが作戦会議をするような構図に、しかし自然とその一部となっていた透は、強い既視感を感じていた。
当然ながら、そこで話すのは戦術の事でもなんでもなく、前半戦を終えた各員の所感と、授業終わりの昼休みの話題などであった。
「あー、アクエリ飲みてぇー……!」
翔もまた、試合終わりのご褒美の事を何気なく呟く。
「水でめっちゃ薄めたやつな」
そんな翔の独白のようなものに、透は自然とそんな言葉を返してしまう。
翔はそんな透の言葉に、顔を上げて反応した。
「そそ! ちょっと薄まった味のあの味気無さ。ありえねーよな! てかお前、サッカーやったことあるんだっけ?」
続いてそんな言葉をかけられ、あっとした表情で透は、小さく頷く。
「昔、少しだけだけど」
「マジか! じゃあ一緒にFWやろうぜ!」
そんな事を言ってくる翔の視線は自然と、こちらの顔から、こちらの胸元のゼッケンの9と言う数字に吸い寄せられるかのようにして、
「てかお前9番じゃん! 頼むぜ9番!」
「い、いや。9番って言われても、たまたまゼッケンでそうなっただけだ」
「9番でわかるって、もう知ってるようなもんじゃんか!」
「っ」
確かに、数字でその背番号がどのような存在か、自ずと自白しているようなものであった。
案の定、周りのサッカーをよく知らないクラスメイトたちは、半場首を傾げているが。
「じゃあ後半戦、絶対逆転しような!」
円陣を組むようにした翔の言葉に、偶数チームの一同は「おー」と返事を返す。
これじゃあ本当に本物の試合のようだ。
9(にせもの)番。偽りの数字。改めて自分に与えられた番号をじっと見つめて、透は自嘲する。
自分は何にもなれなかった、紛い物の存在だというのに、本物になろうだなんて、到底おこがましいと思いながら。




