18
雪乃は透の頼み通り、見事囮としての役割を果たしてくれた。むしろ、それ以上の収穫もあったやも知れない。
工場と夕日を背に、目的を果たした二人の駒野場高校生は、駒野場駅までの帰り道を歩く。
「も、もうっ! なんで僕があんなこと! 物凄く恥ずかしかったんだからね!? 普通配役逆じゃない!?」
「わ、悪かった……。でも、雪乃のおかげで必要なことは出来たんだ。それに、ハリウッド並みの演技力だったぞ」
「ハリウッド舐めすぎてないそれ!?」
めちゃくちゃ多方面から怒られそうだと、雪乃は別の意味で突っ込む。
「あ、あとでアイスでも奢るよ」
「……いいよ、もう。それより、あんなことをさせてまで、いったい横で何をしていたの?」
雪乃はある程度機嫌を直し、透に尋ねる。
透は自分のスマートフォンを顔の近くまで掲げていた。いつの間にか、ガムも噛んでいる。
「今日は午前中、小雨が降っていたはずだ」
「うん。朝早くから雨降ってたけど……」
「そして守衛さんは、来賓者の車は中のスペースに停めてもらっていると言っていた」
透はガムをもぐもぐと嚙みながら、言っている。
「雪乃が見た早朝の車は、正門付近に停まってたんだよね?」
「うん、間違いなく、いつも正門の近くだった……」
「つまりその車は、工場から正式に来賓者として迎えられてない、言わば私用で来たような車という事になる。来賓者用の駐車場に停められない、中に入れないって事だからね」
「あ、なるほど。じゃああの車はやっぱり、本来は来るべきはずの車じゃないって事だね」
「その可能性が限りなく高いだろう」
透の言葉に、雪乃は人差し指をあごに添えて、上を向く。
「でもそれと今朝の雨が、なんの関係が……?」
「正門付近に車が停まっていたのなら、雨の跡が残っているはずだ。しかもトラックが何台も行き来する可能性がある以上、トラックが通る真ん中の道に停車するのは避けるはず。ならば雪乃が言っていた通り、その車は必ず同じところに停まる」
そこで、と透は自分の顔を指さす。
はて? と雪乃は首を傾げた。
正確には透がさしていたところは、口であった。
「ガム。今日、蓮見にご飯を買っていった時に、ついでに買っていて、鞄に入れてたんだ。これを正門付近に細かくちぎってばらまいた」
「汚なっ! じゃあなくて、そんなことしてたの!?」
雪乃がぎょっとしていた。
「うん。相手が汚い真似をするというのなら、こっちだって汚い真似をすればいいんだ」
「……体育の授業でも思ってたけど、涼宮くんってクレバーだよね……」
「誉め言葉として受け取っておくよ。サッカーにはある程度のクレバーさも必要だからね」
「でも、ガムをばら撒くって、嫌がらせ……?」
雪乃がジト目を向けてくるが、まさか、と透は苦笑する。……まあ、嫌がらせの意味も、多少あったかもしれない。めっちゃ、ムカついてたし。
「今度の日曜日の試合で、扇大高校に行く。そこでその車の持ち主が本当に扇大高校の関係者だったら、その車が扇大高校のどこかにあるはずだ。もしその車があって、そのタイヤにでもガムが付いていれば、大当たり。その車があの工場に頻繁に来ていたと言う動かぬ証拠になる。ガムの動画はすでに、俺のスマホに記録済みだ」
「なるほど……それじゃあ本当に、証拠を作れるかもしれない……」
「うん」
まあ、相手次第にはなるだろうが、出来る限りのことはやったはずだ。あとは、相手が罠にかかってくれるのを待つだけだ。
それに何より――もう一つの目的も達成できた。
「今日はありがとう。俺一人じゃ絶対に出来なかった。サッカーで言えば、ナイスアシストだった」
「こちらこそ、僕を信じてくれてありがとう」
「じゃあ、日曜日の試合、頑張ろう。駒野場高校サッカー部の雪乃遥人」
「……え?」
すると待ってました、と言わんばかりに、どこか勝ち誇ったどや顔を見せる透はそっと、スマートフォンに録音していた音声を再生する。
『あの、僕、駒野場高校のサッカー部の部員なんです』
それは先ほど、雪乃が守衛に向けて言っていた言葉。間違いなく、雪乃の口から出た言葉。何ならば、うまーくそういう彼の姿だけを撮った動画もばっちり撮影済みだ。
「え、でもそれは、涼宮くんが言ってくれって言って……」
「よろしく、サッカー部の部員さん?」
「え、ちょっと、なんで!? え、ずるいよ涼宮くん!」
「俺、クレバーだから」
すかさずスマホを鞄にしまって隠そうとする透に、雪乃は顔を真っ赤にして、彼からスマホを奪い取ろうとする。しかし透はサッカー仕込みのキープ力で、身体を入れてそれをキープするのであった。




