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こんなことをしても、食中毒で病床に伏している先輩たちが日曜の試合に間に合うわけでもない。もしかしたら全てが的外れで、意味のない事なのかもしれない。だけどやらないで後悔するよりも、やった後で学べば良い。
駒野場サッカー部と何らかの関係があるこの工場の正門には今は、守衛が専用の小部屋に座っており、門を通過する車両や人々を見守っている。
そこに何気なく近づいていく、一人の人影が。
「あ、こ、こんにちは……」
ド緊張している、雪乃遥人だった。
「ん? こんにちは」
まさか無関係者である学生に声をかけられるとは思っておらず、守衛の男はやや困ったような表情を浮かべて、声を掛けてきた雪乃をじっと見る。
「あの、僕、駒野場高校のサッカー部の部員なんです」
「駒野場高校サッカー部……」
偽の自己紹介をする雪乃の口から出た言葉に、しかし守衛は疑うことなく、むしろ申し訳なさそうな表情を浮かべるのであった。
「ああ……。この節は申し訳ない事をしたね……」
「え、えっと……」
「食中毒の件だろう? うちの工場でも大問題になっていてね。なんでも、うちの工場が駒野場高校サッカー部の寮の食堂で提供している食料品の仕入れと加工と搬送を一手に担っていてね。そこが起因で食中毒が起きたんじゃないかって、今も保健所の人が中にいて検査と聞き取りをしているんだよ」
務めている会社が申し訳ない事をしてしまったという罪悪感からか、守衛は事細かに説明して、雪乃に対して謝罪をしていた。
「あ、えっと。ぼ、僕は無関係なので大丈夫です!」
「え……?」
「あ、えっと……! やっぱだいじょばないです! 大問題でした!」
「だよねー……いやほんと、申し訳ないよ……」
「あはは……。保健所の方、もう調査に来ているんですね?」
雪乃が問うと、守衛の男はうんと頷く。
「ああ。今朝から車で来てね。来賓者の車両は屋内の駐車スペースに停まってもらうって決まりだから、そこに車を停めてもらって、今もまだ中にいるはずだよ」
「そ、そうなんですね」
「悪いけどさすがに中には入れることはできないよ?」
「あ、勿論です! こ、こちらこそ、お話してくれて、ありがとうございました!」
雪乃はちらちらと、守衛の男に気が付かれないように、必死にアイコンタクトを真横に向けて送っている。
守衛の男がどこか不審そうに、雪乃の視線の先を追いかけようとするが、それより先に雪乃は両手をバタバタと動かしはじめ、何事かと守衛の男は驚いて雪乃を見直した。
「な、なにごと……!?」
「あ、あははー! なんか無性に、手を出したくなって!」
「こわっ!? いや、ほんと謝るから! 許して! 手出さないで!?」
「全然、僕は無関係ですからーっ!」
「滅茶苦茶怪しいな!?」
などと言ったやり取りを守衛の男と繰り広げている横で、物陰にそっと隠れつつ、透は正門付近で、傍から見れば極めて不審者チックで、怪しすぎる行動をとっていたのだ。
口元をもごもごと動かし、手にはスマホを持ち、何かをパシャパシャと撮影しつつ、時折しゃがんだり、また地面に這いつくばるようにしたりなど。
「ママー。あの人たちなにしてるのー?」
「しーっ。見ちゃいけません!」
大通りを挟んで歩道を歩く子連れの母親からは、工場の正門前で守衛に向けて身振り手振りで手を引いている雪乃の姿と、その真横で隠れるようにしてしゃがんでスマホで写真撮影をしている透の姿が映り、将来我が子をあんな風には育てまいと固く心に誓うのであった。




