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夕暮れの駒野場市。その街中を走る、二つの影。駒野場高校の学生、涼宮透と雪乃遥人だ。二人とも電車通学であり、自転車はない。ただし向かっているのは駅ではなく、全く別の方向。
息を切らす透であったが、前を走る雪乃の息は全く切れていない。見た目はぽっちゃりとした体型の彼であるが、その走力、スタミナは申し分ない。むしろ自分より全然あるほうだと思う。
「本当なのか、雪乃!?」
「たぶん、でも見間違いじゃないと思うんだ!」
駒野場市内を全力疾走する二人は、アーケード商店街を通り、路地裏へ。
「この道は……!?」
大通りとは呼べない道を敢えて行く雪乃に、後ろをついていく透が尋ねる。
「こっから通った方が早いんだ!」
「詳しいんだな!」
「うん……よく通る道、だからね」
やや間を置いて、雪乃は応えていた。地元の人でも知る人ぞ知る、隠された裏通りの数々を、雪乃は詳しく知っているようで、迷うことなく進んでいる。
「見えた、あの工場!」
やがて裏通りを抜けた先、視界に飛び込んできたのは、国道に面した大きな工場であった。何台もトラックが行き来しており、駐車スペースにも大型トラックが停車している。大きな柵越しであるが、そのうちの一台に、透は確かに見覚えがあった。
「あのトラック!」
柵の前を走りながら、透は言っていた。
「どうしたの!?」
「たまにサッカー部の寮の裏の倉庫近くに停車してるのを見たことがある! 間違いない、サッカー部の何かを運んでいる工場だ!」
「やっぱり、そうなんだね!」
ここから先は走ってると目立つ、歩こうと、透と雪乃はまるで帰宅途中の学生のように、何食わぬ顔で横に並んで歩き、工場の正門の方へと一転してゆっくりと近づいていく。
「それじゃあ雪乃は、この工場に最近停まっていた扇大市のナンバープレートがついた車が、さっきまで駒野場高校に来ていた車と一緒だと思ったって事か?」
滲む汗を拭いつつ、バクバクと鳴る心臓と呼吸をどうにか落ち着かせつつ、透は雪乃に問う。
一方で雪乃はすぐに呼吸を整え、落ち着かない様子で工場を眺めつつ、頷いていた。
「そうなんだ……。そして僕は確かに聞いた。この工場のつなぎを着た人にお金の事を話してる、スーツ姿の男の声を」
「それがその車に乗っていた人と同じ声で、スーツも同じに見えたと」
「うん……!」
雪乃の言う事を整理すると、扇大市のナンバープレートをした高級車がつい最近になって早朝にこの工場の正門付近に停まり、車の持ち主が工場関係者の人と何やらお金の入金についてのやり取りをしていた。その車は先ほど、駒野場高校の駐車場に停まっていたと言う。
「……うん。かなり、怪しい。これ以上なく、怪しい臭いがぷんぷんする」
「だよね!? 涼宮くんもそう思うよね!?」
雪乃はどこか嬉しそうに、透の顔を見て言っていた。
「どうにか、ならないかな……? もし仮に、今回のサッカー部の集団食中毒が、あのスーツの男が仕組んだ事だったら……!」
「相手は大人だ……。高校生の俺たちが言ったところで……」
あごに手を添えて透が言う。
「そ、そんな……。これだけ怪しいのに、相手が悪さしてるかもしれないのに、何もできないなんて……!」
雪乃は悔しそうに、口を震わせている。まだ、サッカー部に正式に入っているというわけでもないのに、サッカー自体は好きな彼。そんな彼だからこそ、まっとうな勝負を望んでいたのだろう。
透は逡巡し、なんとかできる方法がないか考え、そしてとあることを思いつく。
「だったら、大人の誰もが見ても、あの車の持ち主の仕業だって言う証拠を、俺たちで作ればいい!」
「作る、出来るの? そんなことが」
「うん。一つお願いがあるんだ」
そう雪乃に対して声を掛けた瞬間、どこか強烈なデジャヴを感じた。
相手の雪乃もまた、どこか懐かしそうに、笑顔を見せた。
「涼宮くんからのお願いって、あの体育の授業のサッカーを思いだすね」
「……そう言えば」
全てが変わった、あの日と全く同じやり取りだったようだ。




