4
翌日の火曜日、平日の駒野場高校の昼休み。学生にとって授業で消費した脳へのカロリーを補給する、大事な食事の時間だ。
クラスメイトの翔は弁当を忘れたと言って寮の食堂へ食べに行き、一人で食べに行くのが寂しい!とのことで、仕方なく達樹が一緒に行ってあげている。
一方透は、いつも通り母親の手作り弁当を教室で食べる。今日はサッカー部の友人ではなく、別の友人とだ。
「そういえば初戦突破おめでとう、涼宮くん!」
「ありがとう」
お互いの机を向かい合わせてくっつけて、透の前に座るのはクラスメイトの男子、雪乃遥人。透の人生が変わった日と言っても過言ではない、あの体育の授業のサッカーゲームで、共にSBのポジションにいた、ぽっちゃりしてる男の子だ。
実はこの雪乃と言う少年、サッカーをやるのは苦手だが、見るのは好きと言う少年だったのである。その知識は深く、高校サッカーにも詳しいのだと言う。
「埼玉県は激戦区で、当然北ブロックも強い高校ばかりな中で、初戦を勝っただけでも凄いよ! ましてや、試合にも出たなんて、もっと自慢してもいいんだよ?」
「まあ全然学校の皆はサッカー部の話題で盛り上がってはないけどね……」
強豪と呼ばれている北平に勝ったことはもっと褒め称えられるべきであると、雪乃は言うが、悲しいかなクラスメイトはおろか学校の反応は皆無に等しいものだ。
「1年生から試合に出るなんて、さすがだなー! 体育の授業で凄かったもん、涼宮くん!」
などと、目をキラキラと輝かせている。
「ど、どうも……」
まだ初戦を突破しただけだと言うのに、まるで憧れのスポーツ選手を前にしたかのような反応に、透も僅かに狼狽していた。
「そんなにサッカー好きなら、サッカー部に入ればいいじゃないか」
透が何の気なしにそう言うが、雪乃は苦笑していた。
「ぼ、僕は太ってるし、無理だよ。小学校の時にちょっとやってたけど、中学校も全然で……」
「俺も同じだよ。小学校の時にやってて、中学校の時は全然やってなくて、高校から復帰したんだ」
まるで透と同じ境遇の彼であったが、大きな違いはあった。
「……僕は小学校のクラブでもずっとベンチだったし、才能がないんだ。球技も嫌いになっちゃったし、サッカーゲームとか、試合を見る方が好きなんだ」
雪乃は自嘲するように力なく笑い、言う。
「まあ、そういう人もいるか」
「うんうん」
透は体育の授業のシーンを思い出しつつ、もぐもぐと口を動かす。
「でも、最後に俺に出してくれたあのロングパス。ドンピシャの場所だったよ。センスあると思う」
「セ、センスなんて……! あ、ああ、あれはたまたま上手くいっただけだよ! それに涼宮くんのトラップが上手だったんだよっ!」
「でも結局は、蓮見が宇宙開発しちゃったんだけどね」
「あはは。あれは遠くから見てて思わず笑っちゃったな」
などと、共通の話題で盛り上がっていた。
「そういえば次の予選の相手は、決まったの?」
「扇大高校っていう私立の高校らしいんだけど、雪乃は何か知ってる?」
「扇大……。うーん、ごめん、僕もわからないな……」
「そっか。サッカー部の先輩含めて、誰も知らないみたいなんだ」
「なんか、凄いね……! 謎に包まれた高校との闘い、ちょっとワクワクするかも……!」
それこそ何かのゲームのやりすぎと言わんばかりに、雪乃は興奮気味に言っている。しかし次にはどこか申し訳なさそうに、髪をかいていた。
「……って、実際に戦うのは僕みたいなのじゃなくて、涼宮くんたちなのにね。勝手に盛り上がっちゃってごめん」
「ううん。応援してくれてるだけでもありがたいよ」
「ありがとう。頑張ってね、涼宮くん!」
「うん。頑張って県大会出場を目指さないと」
クラスメイトの雪乃の応援を受け、透もいっぱいご飯を食べて、体力をつけないとと思う次第であったのだ。




