25 駒野場高校 1:0 北平高校
駒野場高校のCB、度會のゴールにより、アディショナルタイム間近の後半、ついに試合の均衡は破れた。
まさかの予想だにしていなかった、駒野場のリード。北平の観客たちは驚愕の声を上げ、ピッチ上で戦う土佐を除いた北平イレブンの面々は、地面の上に砕け落ちるようにして倒れたり、天を仰いでいた。鬼の形相だった北平の顧問も、一瞬何が起こったのか理解できていないように、呆然とテクニカルエリアで頭を抱えていた。
その逆に、歓声と雄たけびを上げるのが駒野場イレブンと、数少ない観客たち。ベンチメンバーも一斉に飛び出し、ゴールを決めた度會に向かって拳を突き上げていた。
「ハァハァ……。意味が、分かんねぇ……。え、どういう、こと、だ……?」
呆然と立ち尽くし、目の前の出来事が夢ではないかと疑う土佐。
背番号20の相手MFと競っていたはずだ。そうしたらいつの間にかボールは足元になく、バックパスを供給され、それをDFの度會が決めた。
まず副審を見るが、当然オフサイドフラッグは上がっておらず、オフサイドはなし。
次に主審を見るが、主審はゴールを喜んで度會の周りに群がる駒野場のメンバーたちに「早く戻るようにー」などと声をかけ、ゴール自体は認められているようだ。
そして最後に巨大モニターを見るが、そこにも紛れもなく1-0と言う文字が刻まれている。
「決められ、た……?」
顔を手で覆い、汗を拭いながら再び目を開けるが、現実は変わらない。
連続無失点記録が途絶えたことなど、もうこの際どうでもいい。格下の駒野場に、ましてや相手DFに、同じキャプテンのCBにゴールを決められたことが、理解できない話だった。
「土佐……。ま、まだ試合は終わっちゃいない……。アディショナルタイムだって、あるんだ……」
CBの仲間が、おずおずと、こちらの顔色を窺ってくるように声を掛けてくる。
「なんだ一体……。何が起きたんだ……?」
「え、えっと……」
「早く教えろ」
「あ、えっと……。お前が20番と競り合ってるときに、相手の5番のキャプテンが走ってきて、20番がヒールで落としたボールに、お前は、気が付いてなくて……」
「なんで、気が付かなかった……」
「お、俺たちは必死に声をかけたさ! でもお前、全然聞いてなくて。ずっと20番のユニフォーム引っ張ってたんだ!」
20番。
駒野場イレブンとゴールを喜びあう中、しかしいまいちその輪に入り切れず、なんか微妙な笑みを浮かべているあの1年。確か名前は、涼宮透とか言った。
「俺がアイツに引っ張られすぎて、ボールすらも、見失っていたのか……?」
土佐は自身の身体を見つめ、驚愕する。
周りは必死に声を掛けてくれていたと言うが、聞こえなかった。いや、正確には、聞かなかったと言った方が正しいか。
ひとしきり喜び合った駒野場イレブンが、自身の目の前を通って自陣へと帰っていく。
その最中、度會と目が合った。
「昨年は手も足も出なかったけど、今年は足は出た」
「……っ!」
土佐は納得が出来ず、度會を睨みつける。
「なんでCBのてめぇが、あんな位置まで!? それにお前、ボロボロだったはずだ! どこにそんな余裕残してやがったっ!?」
見てくれも泥だらけの傷だらけの度會の姿をじっと見つめ、叫ぶ。
度會は軽く微笑んで、どこか気恥ずかしそうにだが、答えてきた。その視線は、駒野場イレブンの攻撃陣たちに向けられている。
「まだまだあいつらはひよっこだからな。先輩でありキャプテンである俺が、しっかり面倒見ないとな。それに余裕なんて全然ねぇよ。もう今にも足はちぎれそうだし、全身が痛む」
「じゃあなんで……っ!」
「逆に、お前らが本気出してねぇだけだろ」
「……っ!?」
言われ、土佐はハッと息を呑む。
「駒野場相手に余力残して勝とうと思ってたみたいだけど、甘かったな。俺たちは全力でてっぺん目指す。そう約束したんだ。だから余裕なんてねぇし、常に全力なんだよ」
「く、くそ!」
「まだ試合は終わってねぇ。全力で来てみろ。まだ余裕あるんだろ?」
「言われるまでもねぇ!」
ま、できれば手加減してくれると助かるがな、などと度會は捨て台詞を残し、自陣に戻っていく。
残りのアディショナルタイム。
本当の意味で本気を出した北平高校が僅かな時間で攻め込むが、試合はそのままホイッスルの音と共に終了。1-0で、駒野場高校が勝利となった。




