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セカンドハーフ~夢の後半戦~  作者: ふぉるせ
3章

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54/102

24 駒野場高校 0:0 北平高校

 残り時間僅か。北平のコーナーキックが開始される。

 美しい曲線の軌道を描くボールが、青と白が入り乱れる駒野場ゴール前に吸い込まれていく。ここで点が決まってしまえば、全てが終わる。

 一抹の不安を胸に抱くとおるは、激しいゴール前でのやり取りのあと、ボールが掻き出されるのを見た。

 タッチラインを割りかけるそのボールを、駒野場のDFが何とかキープし、必死の形相で出し所を探す。

 透は急いで走り出し、そのボールの受け所となる動きをした。

 目と目が一瞬合い、駒野場DFは透の進行方向に向けて、鋭いパスを送った。


「っ!」


 途中でプレスをかけてきた北平のMFをかわし、透はボールを足元に収め、北平のゴールめがけて走り出した。

 そんな透の動き出しに阿吽の呼吸で合わせた翔と達樹二人のFWも一気に走り出し、相手CB二名を引き付けていく。


「っち! 急いで戻れよ!」


 土佐が大声を上げつつ、しかし内心でほくそ笑む。


(ひどい奴だな……指示出した二人は囮で、自分でゴール決めるってか?)


 向かってくる透を嘲笑い、しかしドリブルのキレは1年にしてはあるようだ。


(そう来るのもわかってんだよ!)


 土佐は前に走り出し、オフサイドトラップを行った。敢えてディフェンスラインを高く上げ、相手FWをまとめて無力化する。よく訓練された動き出しに、当然、相手の素人の1年生が対応できるはずもなく、あっという間に囮の二人はその意味をなさなくなる。


「……っ!」


 しかし透はそれでもなお、果敢に中央に向かってドリブルをしてくる。


「っち。諦めてねぇその顔……ムカつくんだよ!」


 激しいタックル。ラフプレイぎりぎりのものを横から味合わせ、透は思わず悲鳴を上げた。しかしボールは失わず、透と土佐は並走するようにぴったりと横一列に走り出す。


「ラフプレイは……しないんじゃないんですか……!?」


 更衣室での会話を思い出し、透が息を切らしながら土佐に向けて声を掛ける。


「うるせぇ! 生意気なんだよ!」


 二度目のタックル。

 内臓が吹っ飛ぶかと思うほどの衝撃で、透の身体は宙に浮きかける。足元がもつれかけるが、それもどうにか堪え、透はボールをキープし続ける。


(コイツ……強引に突破するつもりか?)


 しかし、相手のスタミナは無きに等しいもので、失速もしている。審判に気付かれないように、みぞおちに一撃喰らわせたのも、功を奏しただろう。

 ――次の一撃で奪い取る!

 土佐がそう直感したまさにその瞬間、一瞬で失速……と言うよりは、ボールごとピタリと停止するような挙動で透が、視界からふっと姿を消す。


「なにっ!? クライフターンか!?」


 しかしそれでも、土佐にも強豪校のキャプテンとしての技術力があった。

 咄嗟に切り返しを行った、透の方向転換に何とか食らいつき、相手の突破を許すまいと身体を入れる。


「小賢しい真似を。まるで覚えたての漢字でも使って気持ちよくなってるみたいだな!? ええ!?」

「っち!」


 透は舌打ちをしながらも再度ボールをキープし、今度は相手のペナルティエリア前を真横に横切っていくようにドリブルを開始する。

 土佐は意地でも前を向かせまいと、透に対してゴール方向に再度追従した。一瞬だけ、引き剝がされそうになった時は、腕を伸ばしてユニフォームをつかみ、相手の走力を殺す。暗黙のルールのようなもので、ファウルを喰らわないような、さりげなさで。それもまた強豪校に必要な、確かな技術の一つには違いない。


「ぜってぇに負けねぇ……! 駒野場なんかに、お前らなんかに……!」

 

 意地でも抜かせまいとする土佐の気迫を全身で感じる透は、ちらりと、顔を振り向かせて土佐を睨んだ。


「俺たちだって、あんたらなんかに、負けられないんだ……!」

「お前ら弱小校とは背負ってるもんが違うんだよ……! 俺たちはどうしても、勝たなきゃならねぇんだよ!」


 駒野場なんかとは違い、大勢の観客が初戦から見ているのだ。

 それをこんな無様な展開で、許されていいはずがない! 勝てなければ、観客たちの怒りを一心に、キャプテンであるこの俺が受けなくちゃいけなくなるだろうが!

 

 ――土佐っ! 土佐ッ!?


 だから、勝つまでは……そんな声に耳を傾けたくもなく、意識的に耳を閉ざしていた。あれだけ信じていた仲間たちの声も、聞こえないふりをしていた。

 こちらを呼ぶ仲間の声も、今は耳障りなノイズだった。


「背負うものが多すぎた、身の丈に合わなかった、あなたの負けだ――」

「は……?」


 透のそんな声に、一瞬だけ立ち止まってしまう土佐。


「土佐!?」「おい!?」「何やってるんだ!?」


 ふと、足元を見る。

 あれほど競っていたのに、ボールはすでに、透の足元にはなく、ただただフリーの透のユニフォームの袖を手で引っ張る自分が、そこにいた。


「一体、いつ……。いや、ボールは!?」


 まだ相手FWは二人ともオフサイドラインを越えているはずだ。だから、いくらこの目の前に立つ透がパスを出したところで、オフサイドになる。

 そう直感して、ピッチを見る。ころころとボールは、二人のすぐ後ろを勢いもなく転がっている。そこにめがけて一目散に走ってくるのは、味方DFとGK。

 そして――。

 

「――オラぁーっ!」


 聞き覚えのある声が、まるで落雷のように全身を駆け巡る。

 急いで転がるボールを回収しようとした、目と鼻の先を駆け抜けたのは、猛スピードで駆け抜けていく青いユニフォーム。背番号5番、度會恭介わたらいきょうすけだ。


「嘘だっ!? なんでここに度會が!? 駒野場のキャプテンが!?」


 目の前でボールを奪われた土佐は、驚愕のあまり、一切の動きを止めてしまう。

 ペナルティエリアを突っ切り、ボールを奪った度會は、飛び出していた北平GKの頭上を越えるシュートを放つ。


「ぐあっ!?」


 北平GKは手を伸ばしたが、触り切れず。

 度會が放った強烈なシュートが、北平のゴールネットを突き刺して揺らした。

 1-0。ついに試合の均衡が崩れた瞬間であった。

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