23 駒野場高校 0:0 北平高校
後半戦残り10分弱。駒野場のネイビーのユニフォームを身に纏った透は、まずCBのキャプテン、度會の元まで駆け寄った。
「涼宮か……。御覧の有様だ……。なんとか耐えているが、延長戦まで持つかギリギリだな……」
すでに消耗しきっている様子の度會に、透はそっと声をかける。
「延長戦まではいかないです。必ず、決めてきます」
「はは……。やれるといいけどな……」
「やります。約束しましたから。必ずリベンジしましょうって」
あの日一緒に帰った帰り道を思い出してか、度會もハッとなった後、「そうだな……」と汗だくの顔で強く頷く。
透は続いて、ワントップで頑張っていた蓮見翔の元へ。
「よく頑張った、蓮見」
さすがの翔もぜぇぜぇと息をついていたが、透がやってくると、その表情を一気に明るくする。
「涼宮―!? 来るの遅すぎるー!」
「あ、汗でびちゃびちゃだからあまり近づかないでくれ……」
抱き着いてくる勢いの翔を、慌てて躱す。せっかく新品のユニフォームを汚す最初の汗が、他人の者になるのは、ちょっと抵抗感がある……。
「ひどい……! でもそれより、これ勝てるの……?」
「なに弱気になってるんだ……。蓮見は駒野場のエースストライカーなんだろ?」
駒野場のエースストライカー。そう呼ばれ、翔もまた、弱気になりかけていた心を取り戻す。
「そうだった……。まだ0-0ってことは、一点でも点を取れれば勝てるってことだな!」
「その通り」
そして透はトップ下のポジションへ。
翔と達樹の2トップFWと言う、布陣は、言わば駒野場の攻撃陣は全て1年生が担ったようなものだった。
そんな布陣を見た、なまじ頭が切れる相手の北平校の顧問は、別の意味でキレかけていた。
「駒野場め……。俺たちをなめ腐りやがって。攻撃陣が全員1年生だと……!?」
これにはたまらず、土佐やピッチ上の北平メンバーに檄を飛ばす。
「お前らァ! 相手のオフェンスは全員1年だぞ!? とっとと試合を決めてこい!」
「……っ!」
向かってくる相手が全員1年……。まるで練習試合でもされているような感覚に、土佐も握りこぶしを作る。
「あちゃあ……。楽しみましょうって言ったのに……」
そんな相手チームのやり取りを駒野場ベンチで見る鷲田は苦笑していた。
試合再開――。
ボールは北平高校のコーナーキックから。
(さすがに全員で上がってくるほど、性急すぎちゃいないか……)
透は相手の動きを改めて確認する。
北平のコーナーキック時のポジションを確認すると、GKとCB二名は最低限残し、残りは全て駒野場のゴール付近へ集まっている。ボールをマイボールにしても、土佐を含めた相手CB二人を突破しなければ、ゴールは望めないだろう。
透はすぐに、ダブルFWの翔と達樹に大声をかけていた。
「蓮見! 御子柴! 相手CBにピッタリとついてくれ!」
普通なら、むしろ逆に相手CBに捕まらないようにマークを外す動きをするというのがFWの仕事であるが。そこを敢えて逆の指示を出した透。無論大声であったため、その指示は土佐にも筒抜けであった。
「あの1年、戦術ってもんがまるで分かってねぇな……! バレバレすぎるんだよ指示が!」
土佐が嘲笑う。二枚のFWを配置してパス回しでもして巧みにこちらの防御網を突破しようとする算段だろうが、無駄な足掻きだ。
「おう、信じるからな! 涼宮!」
「絶対勝つぞ!」
達樹と翔がそれぞれ、北平のCBにピッタリと張り付いていた。
――これで、舞台は整った。あとは主役が、足を使って勝負を決める番だ。




