21 駒野場高校 0:0 北平高校
後半戦も中盤を迎えようとしている。スコアは微動だにせず、相変わらず0-0のまま。
一向に得点が決まらない状況にしびれを切らした様子の、北平高校の顧問がテクニカルエリアまで姿を見せ、選手たちに細かく指示を与え始める。
「何をやってるんだお前ら、相手を舐めてるのか!?」
ボールがタッチラインを割り、選手たちが水分補給をしている最中も、北平の顧問が激昂している。
「……」
あごの下から水滴を垂らしつつ、それを神妙な面持ちで受け止める北平イレブン。
「土佐! もっと攻めろ! このまま延長戦になってもいいのか!?」
「いえ……」
「このまま0-0で万が一にPKでももつれ込んで負けでもしたら、名門北平の恥だぞ!? 万が一そこで負けでもしたら、お前らのインターハイは終わるんだぞ!?」
矢面に立って咎を受ける土佐は、一向に得点を奪えないでいる仲間たちを一瞥しつつ、「はい……」と形式上の返事だけしていた。
観客たちも今の今まで動かないスコアに、焦燥感を感じているのか、より一層声を張り上げて応援するが、それがますます土佐の心に焦りを生む。
北平高校は選手交代を行う。主にDFを下がらせ、FWを増やしてきたのだ。戦術としてはやはり、明らかに北平の方が正しい。使用する選手も1年生ではなく、経験豊富な3年生だ。
しかし焦りは明確に、北平イレブンのプレイに影を生む。
ファウルを与える機会が増え、カードまで飛び出す始末だ。まだ、初戦だと言うのに……。
「危ないよ、今のプレイ!」
土佐までも、主審に笛を吹かれ、注意される。
削ったのは間違いなく、滅茶苦茶なプレイをしてくる蓮見翔とか言う1年相手だ。
(クソクソクソッ! とっとと一点でもいいから決めやがれ! 無能な味方どもが! 連続無失点記録伸ばしてる俺たちがいるから、お前らだって今まで攻撃に専念出来てるんだろうが!)
このままじゃ監督だけじゃない……! この試合を見に来て、応援している北平校の面々を失望させてしまう!
試合開始直後は普通に見ることが出来た応援席の方を、今はもう、見ることが出来なくなってしまっていた。
(見るな見るな……! こんな情けない試合展開を、見るな……!)
俺たちはもっと上の舞台で戦うべき存在なんだ。それが、こんなところで苦戦しているわけにはいかないんだよ……!
土佐の内面では、そんな激しい激情が渦巻いている。
『駒野場高校、選手の交代をお知らせします』
後半の途中、相変わらず押しまくる北平の攻撃の最中、コーナーキックのタイミングで駒野場の選手交代のアナウンスが響く。
『背番号7番坂本くんに代わりまして、背番号18番御子柴くん。背番号13番西村くんに代わりまして、背番号20番涼宮くん』
ベンチに目を向ければ、こちらに向けて吠えている北平の顧問の嫌な姿を挟み、副審の元で軽く跳ねている達樹と、棒立ちのように立っている透の姿があった。
また昨年の練習試合で見たことがない、1年生であった。
(どうせまた素人だろうが……!)
後半頭から入ってきていた蓮見翔の無様な姿を思い浮かべ、それより後に入ってくる1年が戦局を変えるとはとても思えない。
土佐はすぐにその二人から意識を逸らし、度會を睨みつける。
相手キャプテンは、交代で入って来た二人に声を掛け、勝負はこれからだ! と言わんばかりの視線をこちらにまっすぐと向けてきていた。




