20 駒野場高校 0:0 北平高校
地区予選トーナメント初戦、後半戦が開始した。
蓮見翔のキックオフから試合を再開し、駒野場イレブンのボールとなる。翔のワントップにしたことで、中盤の人数は厚くなり、パスは周り、首尾よく翔にボールが繋がる。
「よっしゃ!」
ボールを受け取った翔は、ドリブルを行い、北平の陣地に入っていくが。
(スピードはあるみてぇだが、なんだあのドリブルは……。なまじ三國のドリブルを見た後だと違いすぎる)
対峙する北平の土佐は素人に毛が生えた程度の精度の低い翔のドリブルボールを難なく奪い取り、すぐさま前線の味方に向けてパスを出した。
ブロックされ、盛大に前のめりとなって転びそうになっている翔には目もくれなかった。
(こんなサッカー素人に……舐められたもんだぜ……)
三國を下げてまで出してきた駒野場に対し、土佐は内心で怒りに近いものを感じつつあったのを、自覚する。それと同時に、もう一つの、感情も。それは土佐の内面から出てくるものではなく、他面的な、外的要因によるもの。
――まだ得点は決まらないのか?
――駒野場相手に0-0は寒いって。
――初戦から延長は疲れるんだよな……。
このピッチでプレイを見つめる観客たちの視線や歓声がそんな言葉と声なり、土佐に降りかかってくるようだ。
(っち、攻撃陣は何をやってやがる……。一点でもいいから、とっとと決めやがれ……。初戦からこんな相手に延長戦とかありえねーし、一点だけでも決めてくれればあとは抑えられるんだからよ……)
ふつふつと、内心で味方に対する怒りすらも沸き起こり、土佐は頬に一筋の汗を流していた。
「――あいつら、勝負捨ててやがるな。立ってるだけでも十分だ」
共にCBのポジションにつく味方がそんな軽口を叩いている。
なんでそんな余裕そうなんだ?お前らはこの試合に勝つことだけが目標なのか、違うだろう?
先の事を見据えて今日は流し程度の力加減で終わらせ、次の試合に一刻も早く備えたいというのに。
「な、土佐?」
しまいには同調してくるような、短絡的な思慮の味方にそんな声を掛けられた土佐は、思わず声を荒げていた。
「ああ? 味方が早く一点でも取ってくれれば、お前みたいにへらへら笑えるかもな」
「な、なんだよそれ。俺たちだってうまくラインキープして守れてるだろ?」
「駒野場相手に0-0だぞ。そんなの俺たちだって、この試合見てる皆だって望んじゃいねぇ。呆れられるぞ」
「う……」
土佐からすればそれは、仲間を奮い立たせるために言ったの過ぎない。
しかしそれも含めて、それら全てが、駒野場の度會とは真逆であった。
相変わらず北平の猛攻が続く中、必死に味方を鼓舞し、時には指示を与え、度會は駒野場の防波堤を守り続けている。
(三國、みんな……見ていてくれ、俺たちは諦めてねぇ……!)
前半で下げられた戦友の無念を、メンバー外となった仲間のサッカー部員たちを思いを背に、自身を奮い立たせ、度會は耐え続ける。
ふとベンチに目を向ければ、片手に持ったタオルで顔を隠すようにしつつ、しかしこちらをじっと見つめる三國の姿があった。
「……っ」
一方で、声を上げて応援を続ける北平の観客たちの声量が、徐々に弱まっているのを感じていた。駒野場の奥深くまで侵攻するまではよいが、寸でのところで弾き返される。前半戦まではそれでも拍手や歓声が上がっていたが、後半が進むにつれて、それが如実にため息や落胆に変わりつつある。
圧勝するはずのゲームは、内容的には一方的に攻勢となっているのだが、スコアは0-0のまま動いてはない。
「……」
ベンチにじっと座っていた鷲田は徐に、透と達樹に声をかける。
「御子柴、涼宮。アップしておけ。次はお前たちだ」
透と達樹が顔を見合わせて頷きあってから、立ち上がる。
「……がんばれ」
ベンチに座る三國にぼそりと声を掛けられ、透は「はい」と返事をしていた。




