19 駒野場高校 0:0 北平高校
ハーフタイムを終えて、ピッチで戦う22人の戦士たちが大観衆の前に帰ってくる。両チームこそ、そのタイミングこそ違ったが、観客席で見守っていた完全アウェイの駒野場校のサッカー部員たちは、その面子を見て驚愕する。
「え、三國下げてね?」
「マジだ。怪我したのか?」
「終わったか、これは……」
ピッチに戻っていく選手の中に、背番号10はおらず、ベンチに目を向ければ、そこに座り込む三國の姿があった。しかしアイシングや、どこか身体を痛めていると言った素振りは見せていない。
誰の目から見ても駒野場の攻撃の核であった三國を前半で下げたのは、完全に悪手の他ない。そういった雰囲気が、数少ない駒野場の観客席からは立ち込め、応援の声は前半にまして少なくなっていった。
一方でその異変は、後半戦の笛が吹く前の北平イレブンにもすぐに知られることとなっていた。
「おいおい嘘だろ……」
「三國を下げた……?」
「FWのアイツ、去年見なかったけど、凄いのか?」
などと、ピッチに立つ北平イレブンは、センターサークルに立つワントップのFW、蓮見翔の姿を見て、少なくない衝撃を受けているようだ。
「……勝負を捨てて一年の思い出作りか」
土佐は表情を歪ませる。ただでさえ少ない攻撃のチャンスを作っていた三國を下げた?
もはや自殺行為としか思えない謎の采配に、しかし土佐は逡巡する。
(いや、待て……。もしかしたらあのワントップの一年、謎のエースストライカーの可能性もある。それこそ漫画の主人公のような、たった一人で戦局を変えるような、駒野場の秘密兵器、隠れた逸材なのか……?)
しかし次の瞬間、その心配は杞憂となる事態が発生する。
「ねー!? これって、ぶっちゃけやったことないんですけど、とりあえず後ろに蹴ればいいんですか?」
後半の開始は相手ボールから。ワントップの翔が足元にあるボールをじっと見てから、気の抜けるような声音でそんな事を、後ろに立つ駒野場の味方に尋ねている。
途端、思わず笑ってしまう北平イレブン。観客席の人たちも、どっと、一斉に笑い声が上がっているようだった。
「あ、アイツ素人かよ……!」
土佐も思わず、ふぅと息を吐く。見てくれはまるで戦局を左右するようなエースストライカーのようなたたずまいであったが、あれではやはり、ただの思い出作りか。
「――そうだぞー蓮見! せっかく立てた初めての公式戦のピッチなんだ。悔いのないように、思い出に残るプレーをするんだぞー!」
途端、ベンチからタッチラインぎりぎりまでやって来た、駒野場のベンチメンバーの少年が、大きな声で翔に声を掛けていた。
それこそ、透である。
そんな透の姿は、観客席からもよく見えており、張り上げた声はよく響いていた。今やこの会場の全員が、二人の気の抜けるようなやり取りに耳を澄ませている。
「そっかー! ありがとー涼宮ー!」
「どーいたしましてー! がんばってー!」
「おーう! がんばるー!」
見てて恥ずかしくなるようなそんなやりとりに、隅の観客席に座る駒野場のサッカー部員たちが顔を下げ、その他北平の応援団たちからは嘲笑が聞こえてくる。
「あれじゃいい見世物だ……」
「は、恥ずかしい……」
一方で大声を出して翔とのやり取りを終えた透は、その後すぐにベンチに戻り、すみっこの席につく。
隣には達樹が座っていた。
「お前ら、めっちゃ笑われてたぞ……」
達樹もまた、見ていられないような面持ちで、柄にもなく恥ずかしげもなく大声を出していた透を見やる。
一方で透は、あくまで淡々と、気にしていない素振りを見せていた。
「でも、最後に勝って笑うのは俺たちってことにすれば、チャラになるから」
「ははは。……やれんのか、それ」
「相手次第、かな」
透はそして、後半戦開始のホイッスルが吹かれる音を聞いた。




