4 奇数チーム 0:0 偶数チーム
クラスの男女毎に分かれて始まる体育の授業でのサッカー。
涼宮透は誰に言われることもなく、SBと呼ばれるポジションにいた。DFと言われるポジションの一部で、サイドと言う名前が付く通り、主に両翼のゴール前ではない方を守るポジションである。まあ、本来はそれ以外にも重要な役割があるのだが、学校の体育の授業でそこまで細かな役割は求められていない。
大事なのはただ来たボールを奪うか、相手FWのシュートを食い止める。それだけに徹していればいいはずだ。
「うーし。じゃあやるぜー!」
そんな涼宮が止めるべき相手――奇数チームのFWのクラスメイトの男子は、先ほどリフティングを行っていた通り、中学校の時はサッカー部であり、経験者らしい。
その才は本当で、体幹も確りしており、まさしく運動系の男子だ。視線はさきほどから何度もちらちらと、隣のコートの女子たちの方を見ており、声がやや大きいことからも、見てほしいのだろう。名前は、御子柴達樹と言う。
「絶対勝ーつ!」
そしてもう一人のサッカー経験者、ではなく現役サッカー部員、蓮見翔も、背番号10番らしく偶数チームのFWに立ち、声を張り上げていた。こちらはやはり対照的と言うか、ただ純粋に、サッカーに勝利するという事だけを考えて、目の前のボールを見ている。
その他のクラスメイトは運動が得意な順にFWやMF、DFへと言った順に、フォーメーションもぐちゃぐちゃに立っている。そもそも運動も苦手そうな人はGKや、その付近で立っているだけと言った人もいた。
「よーし。じゃあゲーム始めるぞー!」
体育教師鷲田純平の首からぶらさげたホイッスルの音が吹かれた瞬間、相手のキックからゲームは始まった。
途端にグラウンドに流れたそよ風。
「……」
SBから見た、前方。すなわちオフェンスゾーンでの最初のせめぎあいを、透はどこか遠いものを見るような目で、見てしまっていた。まるで自分の世界のものではなく、テレビ越しに見た、サッカーのよう。今目の前でまさに繰り広げられているゲームが、未だ現実のものではないような、不思議な感覚だった。
「ど、どうしたの涼宮くん?」
同じくDFの位置に立つ、クラスメイトの男子に声をかけられる。
少しぽっちゃりとした風貌の彼も運動が苦手のようで、DFに立って前で繰り広げられているやり取りに積極的に加わろとはしていないようだ。
「え」
「なんだか、具合悪そうだなって」
「ううん。そんなことないよ」
そう見えてしまっていたのだろうか、透はやや申し訳なさそうな表情で言う。
「そっかぁ。俺は痛いの嫌だから、適当に流そうかなって」
運動が苦手、とは言わず、痛いのが嫌だ、という理由で、苦笑いを浮かべながら言ってくるクラスメイト。
「うん。俺も、そんなような感じ」
適当に相槌を打ちつつ、透が前を向く。
「――いった!」
その途端だった。
前方で弾かれたボールが、透のすぐ横を通過するコースで飛んできたのだ。そのボールの持ち主は今おらず、完全にフリーの状態。
「わ!」
すぐ横で話しかけてきたクラスメイトが、突然のボールの飛来に慌てふためき、どうしていいかわからずジタバタとしだす。
「――っ!?」
透も動き出しが遅れ、しかしすぐにボールの軌道を読むと、自身の足元に収まる所で軽く右足を持ち上げ、ボールをスニーカーの靴底で押して添えるように受け止める。推力を失ったボールは透の足元にすっぽりと収ま――ってはくれなかった。
「え」
「あー……」
周りの人のどこか残念がる声。少しだけの苦笑。
透が抑えようとしたボールのスピードは殺しきれず、白いラインを割ってサイドへと流れていく。
「今のマイボー?」
「いや、最後涼宮が触ったからこっちでしょ」
「OK」
「あ、あはは。急にボールが来たからびっくりしたね」
隣のクラスメイトがまたしても言ってくる。
急にボールが来たから。びっくりしたから。クラスメイトの言う通り、そんな言い訳が、生まれてくる。
自分の足元に収まり切れず、外に出たボールをじっと見つめていた透は、自身の右足の感覚に、しかし決して小さくはない衝撃と感触を感じ取っていた。




