17 駒野場高校 0:0 北平高校
ピッチは相変わらず、北平の支配下にあった。それを見守る大観衆も、ほぼ全てが北平へ向けられていく。北平が攻めれば攻めるほど、その歓声は熱を帯び、北平の白いユニフォームの選手たちを後押ししていくようだ。
屋外の屋根付きベンチに座る神楽坂は、いつ点が決められてもおかしくないこの状況に、ざわつく胸を押さえつけつつ、隣に座る鷲田に打開策を求める。
「監督、このままでは……」
――いつか点を決められてしまう。昨年の二の舞だ。
そう言いかける神楽坂は口を噤んだが、鷲田も神妙な面持ちでピッチを見据えていた。
「わかってるよ。でも今は、度會キャプテンやみんなを信じるしかない。……耐える時だ」
その時、またしても観客たち、北平の学生や保護者、教師たちがわぁーっ!と大きな歓声を上げる。
駒野場サイドのゴール前、ペナルティエリア付近でファウルを貰い、北平の選手たちがハイタッチをしあう。ぎりぎりペナルティキックは避けられたが、ゴール前の直接フリーキックが狙える危うい位置だ。
「これを防げれば、前半は終わる……」
鷲田が呟く。
時間は前半アディショナルタイムに差し掛かろうとしているところ。――ここを抑えられるかどうかで、運命の分かれ道だと言わんばかりに、半場祈るように見守っていた。
北平高校によるゴール前フリーキックが放たれる。その直後、歓声が、一瞬だけどよめきに変わった。
放たれたフリーキックは、壁となっていた度會の気迫のジャンピングによって阻止され、またしてもはじき返される。相手の直撃球を受けた度會は痛みで顔を歪ませながらも、それを痛がるそぶりを見せず、すぐにボールを睨みつけ、意識を継続してプレーに持っていく。もはや理屈ではない、並々ならぬ執念を度會からは感じていた。
一方、ベンチ席のすみっこに座る透は、プレーの最中もしきりに後ろを振り向いたり、上を見上げたり、いろいろなところを見渡しているようだった。
「どしたの、涼宮? 虫?」
隣に座る翔がそれに気づき、同じように周囲をきょろきょろと見渡す。
「やっぱり、強豪校になると、応援も凄いなって」
透が見ていたのは観客席であった。
白いユニフォームに合わせるかのように、白一色の応援団もいる。地区予選トーナメント初戦でこの熱の入りようは、流石と言ったところだ。
「だよなー! 駒野場もいつか、こんな応援受けてみたいぜ!」
翔の言う通り、今の駒野場では、これほどの応援をされることはないだろうし、そもそもサッカー部自体への興味もそこまでないだろう。
「うん。その為には、まずこの試合を勝たないとね」
透はそう言って、ピッチ上にいる選手と同様に一喜一憂する観客たちをじっと見つめつつ、時折ピッチにも視線を向けていた。




