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インターハイ地区予選トーナメント、初戦当日――。
早朝、まだ朝露が立ち込める駒野場高校の正門前に、駒野場高校のサッカー部員たちは集合していた。本日の北平高校との試合は、相手の高校が試合会場である。つまりは、アウェイでの試合という事になる。相手は毎年優勝を狙う強豪校。当然、その熱量は学校全体として高く、応援する声も今の駒野場高校の比ではないだろう。相当なアウェイ環境が見込まれる中、まるでアリジゴクの巣に自ら落ちていくアリの様な存在が、今の駒野場イレブンなのだ。
「全員いるな? じゃあバスに乗るぞー」
試合の日もいつもと変わらずのジャージ姿の鷲田の号令の下、駒野場イレブンたちは二台のマイクロバスに分乗し、北平高校へと移動する。
「やっぺー……。昨日全然眠れなかった……」
「……実は俺もなんだ」
隣同士の席に座る蓮見翔と涼宮透が、お互いの寝不足を告白する。
一方で、一つ前の席に座る御子柴達樹はと言うと――。
「珍しくお前らと気が合うな……」
どうやら同じだったようだ。
「……」
一方で、同じマイクロバス車内に乗る度會恭介は、映り行く景色の窓に映る自分の姿をじっと見つめ返し、何か物思いに耽っているようであった。
「ほら」
そんな度會の隣に座っている三國颯太が、そっとお菓子のグミを渡してくる。
それに気づき、一瞬だけ躊躇した様子の度會だったが、渡されたクマの形をしたグミを手に取った。
「ありがとう、三國」
「考え事か?」
片耳のイヤホンを外しつつ、三國が聞いてくる。
「……ああ。去年の練習試合の時を、思い出していた」
「奇遇だな。俺もだ」
もぐもぐと、口を動かしながら三國が前を向き、呟く。
「……あの時は悪かった。あと、止めてくれてありがとうな」
「何回言うんだよ、それ。大丈夫だ」
三國は表情を変えずに、グミをもう一粒口に含む。
度會も同じように、グミを口に入れた。
するとぽつりと、三國が再び口を開く。
「俺も去年は悔しかった。必死にやってるのに、馬鹿にされてさ。でも勝てなかった」
「……だな。あの時の悔しさをバネにして、今日まで頑張って来たつもりだ」
「俺もだ。確実に俺たちは去年より強くなってるはずだ。それは相手もそうだけどさ。だけど、もう負けるつもりはない」
表情こそ今一つ変えないが、三國も生粋のサッカープレーヤーであり、何よりも胸の内に秘める熱い思いを抱いているのは、知っていた。
「ところで、一応聞くが、なんでクマのグミなんだ……?」
「なんでって。お前そっくりだから」
「……どういう意味だ、こら」
やがて駒野場サッカー部は、北平高校へと到着する。
出発の時の霧は晴れ、快晴の空の下。日曜にも関わらず、すでに多くの車が駐車場に止まっており、しかしそれはほぼ全てが北平を応援する人々のもの。
駐車場では、北平高校の監督が一人で迎えていた。
「――ようこそお越しくださいました。1年ぶりですね、ええっと……」
「どうもどうも鷲田です! 一年ぶりですね? 今日はよろしくお願いします!」
「ああそうだそうだ。よろしくね、鷲田監督。去年はおたくにお邪魔したけど、今年はこっちですね」
まるでこちらの事をあえて覚えていないような、腹の奥では喰えないようなそんな相手にも、鷲田ははきはきと明るい挨拶を笑顔で返していた。
「すでに私たちはグラウンドで練習中です。更衣室に案内するんで、そこで着替えてください」
「どうもー! 今日は楽しみましょうね!」
「あははは……で、では私はやらなくちゃいけないことがあるので先に」
マイクロバスからぞろぞろと降り、1年生は備品なども運びつつ、用意された更衣室へと向かっていく。駒野場が異常なのは言うまでもないが、歴史ある北平高校の更衣室は、お世辞にも綺麗とはいいがたいものだった。
間もなく、鷲田のオーダー発表の瞬間である。各自ユニフォームや、試合に臨む準備を行っている中、ふとロッカールームのドアがノックされる。鷲田かと思ってこの場の全員が見るが、やって来た相手は見覚えのない人物だった。――いや、正確には、新入生トリオだけが見覚えのない相手であったが。
「邪魔するよ。いやぁ、間違えてこっちのロッカーに忘れ物しちゃってねぇ。ごめんごめん、と」
ずけずけと入って来た男子の上下白のユニフォームは北平高校のもの。
「お前は……」
その男子を見た度會が、眉間にしわを寄せる。
「お、久しぶりじゃん。駒野場のキャプテンさん?」
「土佐道春……」
不敵に微笑む相手校のキャプテン、土佐道春その人であった。




