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決戦の日が近づく中、選ばれた選抜メンバー20名を中心としたチームと、それ以外の者に分かれての紅白戦練習が、駒野場サッカー部で行われている。
主に連携面を見ることが多い全体紅白練習であるが、今回選ばれた1年生トリオの周囲との足並みは、お世辞にも揃っていると言いきれるものではなかった。端的に言えば、傍から見ればまだまだ試合に出すのは時期尚早であるというのが、サッカー部員ほぼ全員からの評価だ。
それでもどうにか、しがみついて抗い、必死に食い下がる三人の新入生。
しかしそんな新入生たちに対し、上級生たちにも誇りやプライドはある。
ただでスタメンはおろか、ベンチの座すら譲るつもりは、選ばれた20人の中では誰にもないのだ。
「ぐはっ」
激しいプレスによってボールを奪われ、芝生の上で転がる涼宮透。全身に湿布を貼りつつプレイしているのだが、激しいインテンシティについていけていないようだ。
「……」
同じピッチの上からそんな彼の背をじっと見ていた度會は、続いて鷲田を見る。
彼は二階の席から、くまなくピッチに広がる全選手をじっと観察しているようだった。
その他、翔も達樹も、スタメンで頭から出せるかと言われれば、疑問符が付く内容になっている。
「ありゃまた見てらんないかもな……」
同じポジションを守るCBの仲間に横からぼそりと言われるが、度會の表情は岩のように硬いままだ。
「目先の事に集中するんだ。舐めているとまたやられるぞ?」
「おっと、了解」
公式戦前の最後の練習は、多くの不安要素を残したまま、終了していく。
試合前日の夜。この日もボロボロで家に帰って来た透は、エナメルバックを玄関に落とすようにして置き、リビングへ行く。芝生の上での練習で、その気になれば洗濯も駒野場で行える。泥だらけで帰る心配が無いというのが、母親目線での屋内練習場のいいところでもある。
「……」
日に日にボロボロになり、傷を増やして帰ってくる息子の姿をリビングでじっと見た千春は、はぁとため息をつく。
「今日もいっぱいしごかれたみたいね?」
「うん、そりゃあもう、ぐうの音も出ないほどに」
でもお腹はぐぅと鳴る。寮のご飯も美味しいが、母親の手料理に勝ることはない。
透はジャージ姿のまま、リビングに用意されていた夜ご飯を食べていた。
「明日、いよいよ駒野場高校の公式戦初戦なんだ」
顔に絆創膏を貼った姿のまま、箸でご飯をつまみながら、透が言う。
「知ってるわよ。メンバー入りしたって聞いたときに、スケジュール見ちゃったもん」
ふと、リビングに掛かっているカレンダーを見ると、明日の日曜に蛍光ペンで小さく〇が付いてあり、【試合当日】とだけ書かれていた。気づかない間に、いつの間にか書き込まれていたのだ。
そんな母親の心持にどこかくすぐったい思いを抱きつつ、透はもぐもぐと、ご飯を食べ終える。
「ユニフォームは一回洗濯して畳んでおいたから。忘れ物はしないように、夜のうちに支度しておきなさい?」
「ありがとう」
「試合に出られるかはわからないかもだけど、ベストは尽くしなさいね?」
「うん」
透はそして、明日に備えて早めに床につく。目を閉じて、眠りに落ち、目を開ければいよいよ試合当日だ。
「……」
そう思うと、胸が高鳴ってしまい、中々眠れない。寝不足は何よりもの敵だというのに。
ふと、枕もとで充電コードに接続して充電中のスマホを手に取り、SNSの連絡先に登録してある翔のアイコンまでスライドする。寝る前に彼と話せば、眠りにつけるだろうかと、何気なく考えたのだ。
「……でもよくよく考えたら、うるさくて眠れなさそうだな……」
と言うかそもそも寝る前の電話なんて、付き合いたての彼氏彼女がやることでは……?
そう思い至り、危うく危ない橋を渡ろうとしてしまっていた透は、まるで念仏でも唱えるようにぶつぶつと言葉にならない声を呟き、必死に眠りに落ちていくのであった。




