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地区予選トーナメントに臨むメンバーが発表された翌日、平日の月曜日。
初戦まで残り一週間を切っているわけであるが、あくまで学生の本懐は学業。設備面を見ればそんなわけと思われるかもであるが、スポーツ推進校でもない普通科の公立高校である駒野場高校の平日の月曜とは、日曜の休日を終えた学生が迎える修羅の一日目と言うわけだ。
「えー、このようにあるからして、あーでこーで……」
数学の教師が黒板にチョークで数式を描き、丁寧に解説をしている。
教室の中央あたりの席に座る涼宮透は、それを必死のノートに書き写している最中であったが、ふと、女子生徒を挟んで一つ隣の左の席に座っている御子柴達樹が、何やら頭を抱えて悶絶している様子が目に入った。
「……?」
何事かと、透がこほんと咳ばらいをすると、達樹はこちらに気が付いたようで、必死に前方を指さすジェスチャーをしている。
何事かと、透が達樹の指さす方を追って目線を動かすと、達樹から見て男子を一人挟んだ前方の席に、蓮見翔が座っており。
「え……っ」
透も絶句する。
駒野場高校の制服姿でこの場の誰もが授業を受けているのだが、翔はなぜか、しきりに「いやー、なんか、暑いわー……」とか呟き、制服の上をはだけようとしている。そして彼が制服の下に着こんでいる服こそ、なんと、支給されたばかりの駒野場イレブンのユニフォームであった。
視界の方向上、嫌でもそんな様子が目に入り、達樹は人知れずダメージを負っていたのだ。
案の定、その授業の終わりの休み時間中に、達樹が翔に喰ってかかる。放っておけば人〇しをしそうな勢いなので、透も彼らの席に向かっていた。
翔は呑気に、やって来た達樹に手を振っていた。
「どったの御子柴?」
「どったのじゃねぇ! 何考えてんだテメー!?」
「は!? なんでそんなキレてんの!?」
翔がびっくり仰天してる。
「授業中にユニフォーム着てそれを見せびらかす馬鹿が何処にいるんだ!?」
「ご、ごめん……」
思いのほか、すんなり謝ってくる翔。
一瞬、達樹の怒りも収まった、かと思ったが。
「御子柴も……一緒に見せびらかしたかったよな……」
「そうじゃねーよ!?」
的外れな見解を示す翔に、達樹が再度憤慨する。
「えー別にいーじゃん。これ格好よくって、来週の試合まで待ちきれねーんだよ」
どうやら翔はユニフォームがかなり気に入ったようだ。ボタンを外してはだけたいでたちのまま、翔はわくわくと言わんばかりに言ってくる。
「ユニフォームが格好いいのは完全同意だ。だがそのユニフォームは試合で着るもんだ。日常生活で着るもんじゃねぇ」
達樹が至極まっとうな事を言う。
「えー……。せっかく貰ったのに?」
「せっかくでも駄目なもんは駄目だ。せめて練習着にしろ」
などと言ったやり取りが繰り広げられる中、クラスメイトの男子が声を掛けてくる。
「何それ、サッカー部のユニフォーム?」
「そう! なあ聞いてくれよ。俺と涼宮と御子柴、メンバー入りしたんだぜ!」
「おおー。それって凄いの?」
「めっちゃ凄い! 多分!」
「多分なんだ……」
クラスメイトの男子が苦笑している。
「メンバー入りつっても、ベンチに入れるかはまだわからないけどな……」
達樹がやれやれと肩をすくめる。翔が大々的に宣伝しておいて、これで実際は観客席でした、などと言ったことも十分にあり得るのだ。先も言ったが、ベンチ入りできるのは16人である。
すると今度は、クラスメイトの女子が声を掛けてくる。
「試合出るのー?」
「そそ! インターハイの地区大会予選トーナメントのメンバーなんだぜ!」
「えー! それって凄いのー?」
何のことかよく分かっていない風のリアクションで、女子が透と翔と達樹の三人を交互に見る。
髪に手を添えて、急に挙動不審になるのは、達樹であった。
「ま、まぁな……。50人いるサッカー部の中でも、選ばれるのは20人だけで、そこに俺たち3人は選ばれたんだ……」
「えーそれって凄くなーい!?」
「う、うっす……どうも……」
顔を赤面させ、ぺこぺこと言う達樹。
(女子に弱すぎないか!?)
180度のテンションの変わりように、透は内心で激しく突っ込む。いや、まあ別にだからといってこちらも強いというわけではないが……。
「いつ試合するのー?」
「今週末の日曜なんだ! よかったら見に来てくれよ!」
「うん、行けたら行くねー!」
「おう!」
一方、男女分け隔てなく接する翔が明るく言っていたが、必殺行けたら行く構文である。
女子生徒が去っていったあと、透が彼女の背中を見送った後に、ぼそりと呟く。
「蓮見」
「ん、どしたの涼宮?」
「あの人はたぶん絶対に来ないと思う」
「え、なんで? 行くって言ってたけど?」
「行けたら行く、って言ってたから」
「なんだよそれ!? 行くって言ってるのに来ないってどういうこと!?」
「どういう事と言われても、そういう事なんだ」
「そういう事ってどういうこと!?」
それぞれ別の意味でピュアすぎる、翔と達樹であったのだ。




