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ひょんな偶然から、駅までの帰り道を、二つ上の先輩であり駒野場高校サッカー部キャプテンである度會恭介と帰ることになった涼宮透。
散った桜の花びらがびっしりと敷き詰められた道路は、茜色の光彩を反射させ、帰り道を温かく包むようだ。
昨日今日とガタイの良い筋肉質な体系は、横に立つとなお目立ち、ひょっとすると自分より一回りも大きく見えてしまう。
(先輩と一緒に帰るなんて、中学時代でもなかったし、なんか緊張するな……)
こういう時にお作法的なものはあるのだろうか……?
一歩を後ろを歩く……のは話しづらいし、ライターに火をつける……?(未成年者はタバコ禁止です)
鞄を片手に、内心で逡巡する透を横目に見てから、度會は歩きながら口を開く。
「緊張してるのか?」
「え、あ、はい……」
「まあ当然か。でも、この間の試合とはまるで別人だな。試合中は常に自信満々そうな気がしたが」
「そうでしょうか……?」
翔にも指摘されていたが、そこまで人格が変わっているのだろうか、自分ではよく分かっていない。
「俺の名前は、涼宮透と言います」
「いや、もう覚えてるって。安心しろ」
「あ、すみません……」
苦笑する度會に、透はほっと一息つく。
「初日の紅白戦は見事だった。三國も褒めていたぞ。あいつが誰かを褒めるなんて、滅多にないからな。ましてや後輩を」
「そんな……俺は特に何も……」
「正直言って、俺もノーマークだったんだがな。中学の時もサッカー部か?」
「いえ、中学はまったく……」
度會はちらりと横目で透を見てから、前を向く。
「構わないさ。むしろサッカー部だった奴の方が少ない。メンバーの半分以上が遊びでサッカーをやっているようなもんだ」
「……」
そこで先ほどの二人組の先輩の会話を思い出し、思わず口を噤む、透。
度會も透の気持ちを汲んだのか、ふぅと、ため息を零してから話し出す。
「気を悪くしたら悪かったな。知っての通り、駒野場は新設校で歴史も浅い。だからみんな、本気で上を目指すこともないんだろう」
そんな中で、と度會は再び、透を横目でじっと見る。
「てっぺんを取るって意気込んでるやつは、珍しいもんだ」
「友達と、約束したんです。そいつをてっぺんに、連れて行くって」
「……死んでんのか、そいつ?」
「いえ、まだ全然ぴんぴんしてます。滅茶苦茶生きてます。なんなら結構元気です」
なんか声のトーン的に今は亡き友に捧げるようなテンションだったためか、度會に首を傾げられるが、透は至って冷静に首を横に振る。
「そいつは知識はあるんですけど、プレイは素人同然で、高校からサッカーを始めるような、現実も見えていないような馬鹿なやつで」
透はしかし、肩にかける鞄の紐を握る力を、ぎゅっと込めていた。
「でも……どこまでも夢を諦めていないみたいで、俺には凄く眩しく見えたんです。そうしたら自分が自分で情けなくて、なんか恥ずかしく感じて。それで俺も、そいつと一緒に夢を叶えたいんです」
「それが、サッカーでてっぺんって夢か」
「はい」
そうか、と度會はどこか口角を上げ、眩しく差し込む夕日をじっと見つめていた。
「いい友達だな。同じ夢を共有して、一緒に目指せる。そんなやつは一生に一度会えるかどうかもわからない、大切な存在だ。大事にしろよ」
「はい」
ところで、と透は逆に度會に質問する。
「北平高校と、何かあったのですか?」
「ん?」
「ミーティングの時に、相手のキャプテンの名前を聞いて、反応していました」
「聞かれていたか……」
度會は眉間をやや寄せ、ぽつりと呟くように、
「去年、俺たち駒野場と北平で練習試合をやったんだ。結果はぼろ負け。はっきり言って、手も足も出なかったんだ。向こうは毎年優勝を狙うような強豪校。当然、実力差は段違いだった。それでも後半のアディショナルタイム。まだ諦めてなかった俺に、同じピッチに立っていた相手の土佐道春が、言って来たんだ」
度會は次に、どこかもの悲し気な表情となり、
「お前ら素人集団じゃ俺たちには絶対勝てねぇよ、もう諦めろよ、ってな。正直滅茶苦茶ムカついて、カチンときた。手も出そうになったが、三國に抑えられてな」
そして次には力なく笑い、自身の手のひらをグー、パーと、握ったり開いたりをしていた。
「もしかしたらあの時実際に手を出していたら、俺は今頃駒野場でキャプテンなんかやっちゃいなかったかもしれない。下手すりゃ追放されていたかも。三國に感謝だな」
「……」
そんなことがあったのか、と透もまた、どこか悔しい思いでいた。
「では、今度の地区予選は、その日のリベンジマッチって事ですね」
透の口から出た言葉に、一瞬だけ度會は瞳を大きくしたが、次には不敵に頷いていた。
「そうなるな。あの時は手は出せなかったが、サッカーなら足を使わないとな。今度はどうにか、やり返してみせるさ」
これはサッカージョークだ、と度會はどこか気恥ずかしそうに笑みを零して言う。
透はそんな駒野場サッカー部主将に、力強く頷き返していた。
「はい。勝ちましょう、絶対に」




