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合同練習が開始したかと思えば、先ほどまでのロッカーでの和気あいあいとしたやり取りが、とても遠い過去の出来事のように思えてくる。
最初は新品の黒い練習着をいかに汚さずにしてみようか、いつまで綺麗なままでいられるか、などと言ったお気楽な考えであった者も、とうにそんな考えは霧散している。
「おい一年! 攻守の切り替えが遅いぞ! ボールを奪われたらすぐに囲い込め!」
グラウンドに響く、度會キャプテンの怒声に似た大声。
「くそっ、囲まれるのが早すぎる……!」
達樹が中盤でキープしようとするが、前を向く前に上級生2人に挟み込まれ、強烈なショルダータックルで泥の上に転がされる。新品の黒い練習着に、一瞬で茶色い土がこびりついた。
ポゼッション練習と銘打って行われる狭いエリアでのパス回しだったが、神子柴達樹でさえ苦戦している様子だった。
「あ!? また引っかかった!」
足元へのパスをカットされ、頭を抱える翔。上級生たちは連動してラインをコントロールし、翔が加速するだけの空間を最初から完全に消し去る。
足元の技術と組織的な連携の前に、蓮見翔の個の能力が機能停止していく。
一方で、涼宮透はと言うと――。
「つ、疲れた……」
中学生時代の運動不足が祟ったのか、開始20分もたたないうちに息切れを起こし始めていた。
汗が額から流れ落ち、視界がぐにゃりと歪んでいく。
「あ……」
「? 昨日と同じ人間だよな……?」
昨日はあんなに渡り合えていたのに、今日はあっという間に三國颯太にドリブル突破を許され、他の一年生と同様きりきり舞いにされてしまう。
「きっちー……!」
「これが高校サッカーか……」
「疲れた……」
その他、とても新入生たちにとってはハードな練習となっていたが、やはり上級生たちとの差は大きいようだった。
「うーん。若々しくてフレッシュで、青春だねぇ」
お気まりのジャージ姿で鷲田は、満足そうに練習している部員の面々を見渡している。
「三國先輩の調子、問題なし。涼宮くんはスタミナに若干のマイナス要素、あり……」
その傍らでは、神楽坂が相変わらず選手一人一人のデータを事細かに記録し、手元のタブレットに記録していく。
「あ、鷲田先生」
その途中、ふと急に鷲田に声をかける神楽坂。
「どうしたの、神楽坂ちゃん?」
「インターハイ予選トーナメントの一回戦の対戦相手が決まったみたいです。高校サッカー連盟からメールが届きました」
「お、いよいよか」
神楽坂は早速、そのメールのフォルダを開き、中身を確認する。
「私たちの初戦の相手は……えっと、北平高校です」
「おっと……」
地区大会予選トーナメントの初戦の相手の知らせ。神楽坂からそれを聞いた鷲田は、いやはやとその場で腕を組む。
その表情はいつもの飄々とした様子ではなく、若干強張っているのを、神楽坂は感じていた。




