13 新入生チーム 1:3 駒野場高校
鮮やかな連携プレイと、卓越した個人技。時間にして僅か数分、いや、数十秒の出来事だった。
新入生チームが得点をした。
もちろん、駒野場に慢心はあっただろう。相手は中学生から進学したてで、ましてや戦術も決めていない急ごしらえのチームだ。いくらキャプテンの度會が真剣にやれと声を掛けていたところで、そこの根深い問題を突かれるのは致し方ないし、鷲田もそこは致し方ないのだろうと思っていた。
しかしまさか、そこではなく、戦術と技量で凌駕をしてくるとは。
「へぇ……」
一点を返し、喜び合う新入生イレブンを眺め、二階席から鷲田が呟く。
彼らはようやく一点を返しただけだと言うが、まるで優勝したかのように喜んでおり、まあその気持ちは分からなくもない。
対照的なのは、得点を許した駒野場イレブンの面々。表面上は気にしていない素振りと余裕を見せつけていたはずが、明らかな動揺を浮かべている節を、鷲田は見て取っていた。
「蓮見翔くん……。あの跳躍力とスピードは、いったい……」
隣ではマネージャーの神楽坂舞が、まるで研究対象を見つけたマッドサイエンティストかのように、未知の生物との遭遇したかのように、データを調べなおしている。
「……あれで、部活動所属していなかった……?」
「その前のプレイ。クロスを上げた涼宮透くん」
「安藤君の股抜きですか? あれは偶然では?」
「いいや。その更に前だ。彼が入ってから、明らかに新入生くんたちの動きがよくなっている。まるでばらばらだった軍隊が、一気に知性を宿して、整列したかのようだ。もちろん、個人技も目を見張るものがあったけど」
「……悔しくないのですか? 二年間ずっと苦楽を共にして作り上げたチームが、軽々と一点を返されて」
神楽坂からの問いに、鷲田はほくそ笑む。
「もちろん、愛着はあるし悔しいさ。でもそれより大切なのは、チームとして育って成長して、強くなってくれること」
鷲田はやはり嬉し楽しそうに、「俺もまだまだって事さ」と言う。
たかが一点、しかしされど一点。サッカーと言う競技において一点とは、大小ある様々な持つスポーツと比べて、とても大きな意味を持つ分類のスポーツの一つだ。ましてやピッチに立つ11人や、ベンチメンバー。中にはベンチに入れなかった者や、それを含めた観衆と、競技人口。それらを加味して、全員がその一点を死に物狂いで欲し、また奪われまいと必死に守る。
その一点と言う重みを何よりも、鷲田は知っていた。
「ここからどうなるのでしょうか、この試合展開は……」
「ワクワクするかい、神楽坂ちゃん?」
神楽坂はタブレットをぎゅっと力強く握り、こくりと頷く。
「はい、とても。興味深いです」
――そして、一見サッカーとは無縁そうな彼女もまた、この競技に魅了されてこの世界に足を踏み入れた少女だ。
「ふふ。でも残念。どうやら、¨タイムアップ¨だ」
「? タイムアップ? まだロスタイムも含めて10分はあると思いますが」
「いいや。決着はもうついているようなものさ」
鷲田はそう言って、メンバーの入れ替えを行う新入生チームと、急遽円を作って話し合っている駒野場チームを交互に見ていた。下がっていく新入生チームは、前半から大車輪の働きを見せていた御子柴達樹と、最後まで全力疾走をし、一点をもたらした蓮見翔の二人。
そして駒野場サイドは、度會と三國が口元を隠すようにしながら、何やら言い合っている。さながらそれは――本番のような真剣さで。
いいじゃないかいいじゃないか、と鷲田は、内心でにこやかであった。
「我が校のロスタイム計測システムは極めて正確無比です。もし残り時間に差異があるのなら、大至急修正しないといけませんね……」
「いや、あのね神楽坂ちゃん……そう言う意味じゃないのよ……」
そっちじゃないそっちじゃないと、あごに手を添えてぶつぶつと思案する神楽坂に、鷲田はこてんと椅子からひっくり返りそうになっていたが。




