10 新入生チーム 0:2 駒野場高校
新入生と駒野場高校の紅白戦の前半も、ロスタイムが迫る。
御子柴達樹の孤軍奮闘が目立つ中、新入生側は前半の途中からベンチメンバーを逐一投入していた。20人もいるのでは、およそ半分が変わることになるのだろう。
その最中、再び相手チームの三國がディフェンスラインを突破し、ゴールを決められてしまう。これで3-0。前半のうちに3点を取られ、ポゼッションも相手側が圧倒的に有利。まあまあ絶望的な雰囲気が漂い始めている頃あいだ。
事実、交代でベンチまで帰って来た新入生チームの仲間は、ぜえぜえと息を切らし、汗だくな様相でタオルを頭から被ると、まるで銃で撃たれたかのようにベンチに倒れこむようにして座る。
「まじ、やっべ……っ。中学とは全然レベル違ぇわ……」
「てかこれで大会入賞経験なしって、どんだけ周り強いんだよ……」
ただひたすらに悔しがる人もいれば、
「なんか、思ってたのと違うな……」
「あ、ああ。サッカーって、こんな激しいのか……」
現実を思い知り、ナイーブになりつつある仲間もいた。試合前はどこかひょうひょうと余裕そうなそぶりを見せていた人でさえ、目の前で繰り広げられるただの一点の取り合い。ただの一点、しかしその重さと、重要さ、そして難しさ。改めてそれを見せつけられ、戦意喪失している者もいる。
「……」
ベンチの端に座り、じっと試合を観戦をしている涼宮透は、ここまで一言も周りと会話をしていない。
「あ」
「あ、ああ、ごめん! い、いたのか気づかなかった」
「ごめん」
中にはあまりの存在感の無さに、横に置いてあった荷物ごと座られそうになってしまい、仲間と微妙な会釈をしてしまう始末だ。
「いけー!」
「ファイトー!」
ベンチのすぐそばでは、アップをしつつ、次に交代する予定の仲間がピッチ上の味方にエールを送っている。
「あ」
「あ、ごめん。危ない危ない」
「ごめん」
そろそろ自分もアップを始めようと立ち上がる透であったが、またしてもアップ中の仲間とぶつかってしまいそうになり、微妙な会釈。
(俺ってそんな存在感ないのかな……)
内心でしょんぼりしつつ、透はその場でストレッチを行う。
やがてゲームは3-0の状況で、前半戦を終えた。
ピッチで戦っていた仲間たちが、駆け足で帰ってくる。
「ハァハァ……っ!」
達樹はタオルを首からかけ、汗でぐしゃぐしゃの顔を拭う。
その表情はとても険しく、同時に、まだ勝利を諦めてはいない闘争心を宿し続けている。
「くっそ……! めっちゃ疲れるな……!」
翔もまた、両膝に両手を添え、肩で息をしながら、ぜえぜえと荒い息を吐いていたが、まだまだ諦めている様子はない。
対照的なのは先輩たちの方で、前半は選手交代なし。汗こそかいたり水分補給はしているが、こちらほど消耗している素振りはない。
それもあり、やはりこちらの面々には絶望的な空気が漂っている。
「ど、どうする……?」
仲間の一人が、探るように、小さな声を出す。
「この状況じゃ、御子柴は外せないよな……」
「俺は構わないが……」
達樹はそこまで言うと、じっと、透を見つめる。
「涼宮。後半は頭から出るか?」
前半の主役と言ってもよかった達樹の名指しでの問いかけに、この場の面々の全員が、一斉に透を見やる。
透は頷いた。
それを見た翔が、疲れなど吹き飛んだと言わんばかりによっしゃ!と喜んでいる。
一方で、透は冷静だった。
「わかった。ポジションはどうすればいい?」
「……」
達樹は紙コップに入った水を口に含みながら逡巡し、吐き出しながら答えた。
「偽9番、頼めるか?」




