8 新入生チーム 0:0 駒野場高校
練習場に設置されたスピーカーから、試合開始のホイッスルが鳴らされる。
黒い練習着姿の駒野場高校のイレブンと、白い体操着に黄色い蛍光色のゼッケンを身に纏った新入生チーム同士による紅白戦が、開始されたのだ。
そんな両チームの激突を、二階の観客席から監督である鷲田が見つめる。その表情はどこか楽しげで、まるでお気に入りの音楽を聴いてるかのようだった。
そんな鷲田の隣の席に座り、真剣にタブレットに指を走らせている駒野場高校の女子生徒が一人。
「もうサッカー部のマネージャーは慣れた? 神楽坂ちゃん?」
神楽坂と呼ばれた、眼鏡をかけたジャージ姿の女子マネージャーは「はい、おかげさまで」と言葉を返す。その眼鏡の奥の瞳は、ピッチと手元のタブレットを、しきりにいったり来たり。
「やっぱり駒野場が押してますね。ポゼッションも70%以上、と言ったところでしょうか。安西くんの動きが少し悪い気もしますが……」
などと、あごに手を添えてぶつぶつ言いだす彼女は、駒野場高校の二年生の女子生徒。サッカー部のマネージャーを務める、神楽坂舞であった。
タブレットには両チームの面々がびっしりとリストアップされており、それぞれの詳細なデータが、次々と、彼女の手によって更新、分析されていく。
「相変わらず分析大好きだねぇ」
「選手の皆さんの健康的かつ経済的な活動を支援し、的確なマネジメントをするのが、マネージャーの役目ですから」
「うん……微妙に合ってるようで、合ってないような気がするんだけど……」
鷲田が絶句混じりに突っ込む。
その直後、早速試合が動いた。
三國の放ったシュートが、新入生チームのゴールネットを揺らしたのだ。
またまた室内アナウンスで、駒野場高校の得点がアナウンスされる。
「三國先輩は流石ですね。動き出し、ドリブル制度も完璧です。ですがもう少し筋肉をつけた方が……」
放っておくとすぐに自分の世界に入っていく神楽坂に、鷲田は苦笑してから目線を新入生チームへと向ける。
そして、そのまま神楽坂に聞いてみる。
「それで、我が校が誇る優秀なDSのポジションの神楽坂ちゃんが気になる新入生くんは、いるかな?」
「……いまだ所感ではありますが、FWでキャプテンを務めている御子柴達樹くんなんかは、中々優秀かと」
「さすが。見る目あるねぇ。彼、中学校は柳瀬川第七中だったとか」
「なかなか有名なところですね。確か県大会常連だったかと」
鷲田もうんうんと頷いていた。今のところ、新入生チームは彼を中心にどうにかアタックを仕掛けている状況だ。
一方で、¨データセンター¨などと言うありもしないポジションに対する突っ込みは彼女から一切なかったことに、鷲田は心の中で涙を呑んでいた。
またしても駒野場高校の得点が入る。こうなることは十中八九わかりきっていたが、それでも、新入生チームは諦めていない。
「さぁて。他に見どころはあるかなぁ……と」
「……」
鷲田も神楽坂も時より会話を挟みつつ、真剣に両チームのプレイを見守っていた。




