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母親にサッカー部の入部届を押し付けた翌朝。
目が覚めた涼宮透がリビングに行くと、そこには机の上に置かれた朝食と、親のサインが書かれたサッカー部への入部届の紙が。
「おはよう」
透は一瞬だけ頭が混乱しかけつつも、椅子に座る。
「条件があります」
母親の涼宮千春はすでに朝から元気いっぱいで、透の前で有無を言わさぬ強い口調で、向かいの椅子に座って言う。
「……なんでしょう」
寝ぐせでぼさぼさの髪のまま、ぽわわんとした表情で、透はトーストを齧りながら尋ねる。
「学校の人と話をさせてください。特に、サッカー部顧問の人と!」
「……モンスターペアレントって言われますよ」
至極いやそうな表情をしながら、透は言うが、千春は「言われようが構いません!」と譲らない。
「大袈裟だよ……。入部前に親がそこまで出てくるのは、過保護だって思われる」
「過保護で結構です」
「……」
どうにかして抵抗を試みたが、無駄なことなのだろう。
透は「わかりました」と言い、椅子から立ち上がる。
「……もう、本当に決めたのね?」
「……はい」
「はぁ……」
頭に手を添え、千春はため息をする。
鼻を少しだけすすりつつ、あごの下に手を添え、じっと透を見つめ上げてきた。
透は昨日のように逃げることはせず、立ったまま、千春を見つめ返す。
「……入部は認めます。サッカーも、またやるのは、許します」
「……ありがとうございます」
断っておくが、別に世間一般から見ても、千春が過保護なわけではない。むしろこの高校を選んだのも、今までだってほとんどのやりたいことは自由にやらしてくれていたし、何か制限されたことはない。……サッカーを、除いては。
そんな母親が強固にサッカーだけはさせないと言う態度も、透は痛いほど理解している……つもりなのだ。
「遅刻するから、もう行かないと」
朝の支度を済ませ、最後まで机の上に置いたままであった入部届を、手に持ちながら透は言う。
「……こんなことを言うのはなんだけど」
出発の直前。玄関まで見送りに来てくれた千春が、ぼそりと言う。
「……やると決めたのなら、後悔はしないように」
「……うん。ありがとうございます」
できれば母親にはもう迷惑はかけたくないのだ。だからどうか、この決断も認めてほしいし許してほしいと、透は胸の中で強く思っていた。
朝の正門前で、偶然にも蓮見翔と遭遇する。
自転車を駐輪場に置き、翔は「おはよう!」と手を掲げて走り寄る。
「放課後が今から待ちきれないな! 授業スキップしてぇー!」
「ああ。俺もだ。ちゃんと入部届もある」
鞄をぽんぽんと叩いて、透は自信ありげに言っていた。
天気は今日も快晴。親の許しを得た透の新たな一日が、ここから始まろうとしていた。
一方――。
「ここにあったんだ」
透が家を出た後、千春は家の押し入れにしまっていた古い道具を次々と取り出していた。目につくのは、透が小学生の頃の写真や、サッカーグッズの数々。トロフィーを掲げているものや、両親とサッカーボールをもって映っている写真。研究や勉強用のビデオや、付箋まみれのノートまで。
「……これも仕方ないのかしら」
それら一つ一つをじっと見つめ、千春は複雑な思いと表情で、過去の日々を思い出しているようだった。




