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セカンドハーフ~夢の後半戦~  作者: ふぉるせ
2章

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3

「今日はありがとう、蓮見はすみ


 鷲田わしだに入部届を貰った涼宮透すずみやとおるは、学校の校門の前で改めて蓮見翔はすみかけるに礼をする。


「寧ろ礼を言うのはこっちだ。サッカー部入るって決めてくれてありがとうな!」


 自転車を押しながら、翔はニコっ、と微笑む。背後で沈む夕日も相まって、やはり眩しい。


「まだ入部届は出してないから、正式には明日からだけどな」

「まあそっか。親のサインとか、必要だもんな」


 親のサイン。その言葉を聞いた透は、微かに表情を硬くする。


「お前は電車なの?」


 そんな些細な表情の変化を見破ることはなく、相変わらず明るい表情のまま、翔は聞いてくる。


「ああ。そう言う蓮見は自転車なんだな。家が近そうでうらやましいよ」

「まあさすがに雨の日はチャリンコじゃなくて電車だけどな。んじゃ、また明日な!」

「ああ。また明日。交通事故とか、気をつけろよ」

「お前は俺の母親か!」

「本当にあぶなかっしいから心配なんだ……」

「ねえちょっとやめてぇ! 真顔で言われるの本当に怖くなるから!」


 透の心配するような声音に、冗談ではないと翔は震えていた。

 そんなやり取りをして、手を掲げ合わせ、二人は正門を潜ってそれぞれの帰路につく。


「……ふぅ」


 ワイヤレスイヤホンを耳につけ、お気に入りの音楽を聴きながら、駅を目指して家に帰る透であったが、その心中はずっと、穏やかなものではなかった。

 埼玉市内のマンションの一室が、透の家だ。


「ただいま」


 電車をつかってそう短くはなかった帰宅時間。

 玄関で靴を脱ぎ、リビングの扉を開けると、見慣れた母親の後ろ姿が台所にいた。


「おかえり」

「お弁当、ありがとう」

「ちゃんとお礼が言えてよろしい」


 なんて、空になった弁当箱を差し出しつつ、透はすっかり自分より身長が低くなった母親をじっと見る。いや正確には、こちらの身長が伸びたのか。

 母親の名前は涼宮千春すずみやちはる。息子の自分が言うのもなんであるが、とても愛嬌があって、料理の腕も一流で、ザ・母親と言うべきような人だ。

 しかしそんな母に対して、今この瞬間ばかりはしどろもどろになってしまう。


「えっと、メール、見てくれた?」

「……」


 一瞬だけ、流しを流れる手元で食器を洗う千春の手つきが止まった。

 透はそれを視界の端でとらえつつ、思わず震えそうになる両足をただす。


「反対です」

「……」


 母親から帰って来た言葉は、¨想定通り¨のものであった。


「ごめん、なさい……」

「……っ」


 自然と口から、謝罪の言葉が出る。

 かた、かた、と時計の針が動く音が、やけに大きく聞こてくるようだ。


「……なんで、またやりたいと思ったの?」

「……それは、サッカーが、やっぱり、好きだと思ったから」


 そしてもう一つ。頭の中に浮かんだ、アイツの笑顔を思い出しながら、しかしそれは口に出せず、透は言う。

 ため息は、千春の方から聞こえてきた。


「私の気持ちは分かるよね……? 私だって、透には――」

「うん……。お母さんの言いたいことは分かる……つもりなんだ」


 思わず母親のいう事を遮って、透は握りこぶしを作って、言い返す。

 俺が再びサッカーをやりたい。そんな事を言ってしまうだけで、本当に母親の思いなど理解していないのは、百も承知だ。

 やがてこの状況が耐え切れなくなってしまい、先に音を上げてしまったのは、透の方だった。


「これ、入部届なんだ」

「こんなものまで……!」


 差し出された白い紙をじっと見つめ、信じられないと言った感じで、千春は濡れた手で口元をふさぐ。


「ここに、親のサインがあるから、お願い、します……」

「……」


 ほとんど最後は一方的に押し付けるようなものだった。

 リビングの机の上にそっと紙を置いて、透は自分の部屋へと入っていく。


(俺は、なんて卑怯なんだ……)


 お腹もお風呂も、今は入る気になれない。

 鞄を壁にかけ、制服姿のままで透は、ベッドに投げられた人形のように仰向けとなる。


「……」


 白い天井をじっと見つめてから、視線を横に逸らした。

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