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サッカー部顧問、鷲田純平に入部届を出しに行ったところ、先客としてすでに立っていたのは、先ほどの体育の授業で相手チームであった御子柴達樹であった。
「……」
「……」
「……」
同じクラスで顔見知りだというのに、なぜか顔を合わせた三人で、無言と静寂の間が広がる。
静寂を割いたのは、蓮見翔の一言だった。
「まさか、お前もサッカー部に……」
「だー! お、俺はただ、鷲田先生に用があっただけだ!」
めちゃくちゃ顔を真っ赤にして、何かを隠すように両手をわちゃわちゃと上下に動かして、達樹は大声で言う。
……先ほどの戦いのときもそうだったが、翔とは真逆で、いろいろと分かりやすい……。
「蓮見。新入部員だ。後で施設とか案内してやってくれ」
そんな赤面する達樹の後ろで、椅子に座る鷲田が、達樹が用意したものと思わしき部活の入部届をひらひらと掲げていた。鬼かこの人は。
「だー! 先生!?」
「なんだ親に秘蔵のエロ本が見つかったような顔をして。今日から俺はお前の顧問になるんだぞ?」
「この際だったらエロ本の方がよかったかもしれない!」
達樹はいよいよ恥辱に耐え切れずと言ったところで、慌てて頭を下げて、この場を後にしていった。
彼が職員室を出る直前、彼の様子をじっと見つめていた涼宮透と、目が合う。
「……っ」
「……」
「で、君は?」
鷲田に声を掛けられ、透はハッとなって彼に向き直った。
頭を下げてから、目を見て話しだす。
「初めまして、涼宮透と言います。サッカー部に入部したくて、直接お話をしに来ました」
そう説明をする透の横で、翔がうんうんうんうんうん!と物凄く頷いている。
「へぇ……」
鷲田は眼鏡を光らせ、口元に手を添えてまるでこちら値踏みするかのようにじっと見つめる。
「先生! さっきの体育の授業でも見てたでしょう!? めっちゃすごいんですよ彼! もう天才です! めっちゃ強いです!」
謎の間に耐え切れなかったのか、翔がぎょうさんな事を大声で言う。当然職員室なのでほかの教師もおり、天才だとか持て囃されている存在に視線が集中する。
どうか勘弁してほしいと心の中で念じながらも、なぜか透も、眼鏡の奥の瞳でこちらをじっと見据える鷲田の視線から、目を逸らすことができないでいた。
「……本気か?」
ただ一言、そんな言葉をかけられる。
おおよそ予想していなかったが、しかし答えなければいけない、根本的かつ普遍的な言葉。その真意を測るまでもなく、透は首を縦に振る。
「本気です。よろしくお願いします」
「……」
鷲田はそこで、机の引き出しを引き、一枚の紙を透に差し出した。
「じゃ、これ書いてきて。明日まででいいから」
紛れもなくそれは、駒野場高校サッカー部の入部届の用紙だった。
(なんか、この高校の入学面接よりも緊張したな……)
内心でバクバクと鳴っていた心臓のまま、透はその白い紙を両手で受け取っていた。まるで、賞状を受け取るような姿勢で。
「蓮見。明日の放課後は御子柴と……」
「えっと、涼宮です」
「あーそうだった。涼宮を連れてグラウンド集合だ」
「わかりました! ありがとうございます!」
ペコリと、翔が深くお辞儀をする。
なんでお前がお辞儀をするんだと内心で突っ込みをしつつ、しかしつられた透もまた、深くお辞儀をしていた。
達樹と透と翔が去った夕日が差し込む職員室で、ふんふんと鼻歌を歌う鷲田。
「なんか今日は上機嫌ですね、鷲田先生」
同僚の教師にそう声をかけられ、鷲田はほくそ笑んだ。
「今年は豊作なもんでね」
そんな彼の職員室の机の上には、山積みとも言うほど積みあがった、先ほど透が差し出した入部届と同じ形式の紙が何枚もあったのだ。




