31 駒野場高校 1:2 陽光白崎高校
三國からフリーキッカーを名指しで指名された達樹は、ゴール真正面、相手DFの壁が並ぶ絶好の位置でフリーキックを蹴る直前、涼宮透のアドバイスを受けた。
そして鳴った主審の笛。耳の鼓膜を震わすほどのそれは、バクバクと鳴る心臓の音と共鳴し、達樹の全身を駆け抜ける。
(落ち着け……。練習は何度もやって来た……いつか俺も、出番があるんじゃないかって、中学の時から、ずっと……)
額から流れる汗が両方の瞳に染み込み、痛みから思わずその場で顔を振り払い、再び目を開ける。まどろむ視界が晴れると、幾度も見た光景が、目の前に広がっていた。柳瀬川第七中のサッカー部のユニフォームを着る、神宮司奏多が、フリーキックを蹴る瞬間だ。何度も見ていた彼の背中の光景を、達樹は深呼吸をして、目の前から消え去らせる。
今アイツが立っているのは、俺の背中の先。あの日からずっと見ていた光景は今、立場を変えて、逆になっている。きっとアイツは、俺の背中を今、じっと見つめているのだろう。
――別の高校に逃げたんだろ?俺からレギュラーを奪えないから。
彼の言葉が再び脳裏を過る。それだけに支配されそうになる頭から雑念を払い、達樹は一歩、二歩と後退していき、モーションセットする。ちらと横目で見ると、こちらを真剣な面持ちで見つめる、汗を垂らす透の姿があった。
「……っ」
透が微かに頷いたのを合図に、達樹はセットされたボールへ向かって走り、狙いを定めて思い切り、利き足である左足でボールを蹴り飛ばした。
削られた芝生が跳ね、身体から飛ばされた汗が散る。達樹が放ったボールは風を裂く音を轟かせ、一列に並んだ壁の右側、すぐ真横を低弾道で通過。
「っぐ!?」
相手GKの海藤は向かって左側に飛んできたそのボールに対し――反応することが出来ずに、中央に立ったまま、ゴールを許してしまった。
「入った……っ」
達樹が思わず、信じられないような面持ちで、呟く。ボールはゴールのネットを揺らし、間違いなくラインを越えて転がっていた。2-2。駒野場が同点に追いついた。
「――ナイス!」
「よっしゃあ!」
喜ぶ駒野場イレブンの歓声とガッツポーズと、主審の笛。アナウンスによる得点を知らせる声で、現実に意識を戻す。
「なんちゅうスピードだ! 相手キーパー反応できてなかったぜ!?」
「涼宮が、あそこがいいかもって言ってくれて……」
歓喜の輪の中でもみくちゃにされる達樹が、照れ笑いを浮かべながら、仲間たちに答える。
「どういうこと?」
「最初の失点と、二回目のチャンス。どっちも相手GK前でボールの軌道が直前で変わってたんです。だから、相手GKはその時の記憶からすぐに身体を動かすんじゃなくて、壁に当たってボールが跳ね返ることや、軌道が逸れることを予測してギリギリまで踏み込んだ動きを見せるって。そこで意表をつくように、力のある高速の球をサイドネット隅へ狙って打てば、相手GKの反応はワンテンポは遅れるかもしれないって言ってて! それが的中したんですよ!」
達樹の説明は、しかし歓喜に舞う駒野場イレブンの歓喜の声によってかき消されていく。
無論その立役者である透と翔、さらには遥人や度會らDF陣も加わって、全員で喜びを分かち合うのだが、まだ試合は同点。振り出しに戻ったばかりだった。




