28 駒野場高校 1:2 陽光白崎高校
後半戦開始直前、人員を入れ替えた駒野場イレブンと、あまり大きな変更はない陽光白崎高校の面々がそれぞれのロッカールームからピッチに再入場していく。
観客席は後半戦を戦うためにピッチに戻って来た両イレブンを見て、歓声と拍手を強く送る。
(あ、後半から涼宮くん出るんだ……)
観客席の片隅で、背番号20の青いユニフォームの後ろ姿を見つけ、毬本澪は手に持ったスマホのカメラを拡大して、彼を捉える。初めて見る彼の生のユニフォーム姿は、普段隣人として出会う時の彼と違って、どこか新鮮であった。
「奏多も後半出るんだ」
隣に座る神宮司遥香がやや驚いた様子で呟く。
「前の試合は確か、前半でハットトリックを決めてからは、後半で下がってましたからね」
「ずいぶん詳しいじゃん。相手校の試合もちゃんと見てるなんて、ガチだね、あんた」
ずばりと指摘され、毬本はやや声が上ずる。
「え、ええ、ま、まぁチェックしないと……!」
「へへへ。まあでも、まだ1点差だしね。何が起こるかわかんないよー?」
一方でピッチでは後半を迎える直前、陽光白崎高校の監督がGKの自チームキャプテン、海藤に声をかける。
「駒野場の交代で入って来た背番号19、20、21には気をつけろ」
「それって……全員1年ですね」
「だからこそだ。それから、神宮司をもっと見てやれ」
「……」
海藤は先にピッチに入り、軽くストレッチをしてセンターサークル付近でたたずむチームメイトの1年生をじっと見つめ、「はい、父さん」と返す。
「今はお前の監督だが」
「あ、ごめん、じゃあなくて、はい、監督!」
そんなやり取りをしていた相手ベンチを見ていた鷲田は、やや驚く。
「あれ親子だったのか……。ま、向こうもさすがに甘く見てくれてはいないか。さすが、強豪」
鷲田はそれでも、後半から投入した1年生たちに期待を込めた眼差しを送る。
「今まで通りの作戦は簡単には効いてくれない。でも、それすらも跳ね返すのが、今の駒野場イレブンだ。信じてるよ、みんな」
「が、頑張ってください、みなさん、ごほっ、ごほっ」
「……神楽坂ちゃんは本当に休もう? もうおじさん心配だよ!?」
「だ、だいじょぶでず……」
ずびずびと、ティッシュで鼻をかみながら、神楽坂は意地でもベンチに座り込んでいるのであった。
一方で、センターサークルでは後半開始直前、御子柴達樹と神宮司奏多が再び相まみえていた。
「てっきり前半でベンチに下がると思ったよ。臆病者」
神宮司がそう声をかけてくる。
「そういうお前こそ。サッカー好きじゃないのに、後半もやるんだな」
達樹は冷静に、言葉を返していた。
「仕方ないだろ。それが監督の指示なんだから、従わなくちゃな」
あくまで自分が進んでやりたいわけじゃない、と神宮司は肩を竦めて言う。
「そうか。お前は、そうだもんな」
達樹はそうしてその場でそっと目を瞑り、深く息を吸う。不思議と、陽光白崎高校に絶え間なく送られ続ける歓声が、この一瞬だけは、聞こえてこないようだった。その代わりに聞こえてきたのは、中学時代のサッカーをプレイする自分と神宮司の声。
――高校は陽光白崎にするんだろ御子柴? 近所だし、サッカー強いし。
――俺は……。
そんな懐かしい声を聞き流した直後、主審の、後半開始を知らせる笛が鳴り響き、達樹は足元のボールに思いを乗せて蹴りだした。




