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セカンドハーフ~夢の後半戦~  作者: ふぉるせ
5章

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117/126

26 駒野場高校 1:2 陽光白崎高校

 神宮司奏多じんぐうじかなたのドッピエッタによって、前半のうちに逆転を許され、試合はハーフタイムを迎えた。

 前半を終わってみれば、駒野場側の枠内シュートはたった1本のみ。その一本も、相手DFによるブロックにより軌道が変わってたまたま入ってくれたゴールの一本のみで、チャンスらしいチャンスは殆どなきに等しかった。

 挑戦者である駒野場高校イレブンはみんな汗を垂らし、前半のうちに大きく消耗してしまった。何よりも最悪なのが、連携が上手くいかなくなっていること。個の力で勝てないのであれば、連携プレーで勝利をもぎ取るのは、鉄則だ。無論陽光白崎の激しい攻守の切り替えの上手さや、決勝戦と言う舞台と言う緊張感もあるのだろう。しかし、それ以上に。


「……っ」


 その原因を作り上げてしまったと言っても過言ではない、本日唯一の1年生スタメンの御子柴達樹みこしばたつきは、ロッカールームを出てトイレへと向かう。


御子柴みこしば――」


 度會わたらいが心配そうな顔を見せて彼の後を追おうとするが、それを止めたのは、涼宮透すずみやとおるだった。


「度會先輩、ここは俺に任せてくれませんか?」

「涼宮……。頼んだぞ」

「はい」


 度會からの確かな信頼を受け、透は達樹を追ってトイレへと向かった。

 陽光白崎のロッカールームに併設された男子トイレの洗面所の前で、達樹は項垂れるようにして立っていた。


「涼宮か……」

「よく気配がなくて驚かれるんだけど、すぐ気づいたんだな」

「まぁな……」


 トイレに入って用を足す素振りをした透に、達樹は俯いたまま力なく声をかけていた。

 素振りだったので、透はすぐに達樹をじっと見つめる。


「どうしたんだ御子柴。ピッチ上で神宮司と何かあったのか?」

「……ああ」


 達樹は顔を上げて、鏡をじっと見た。汗まみれの自分の顔が、自分をじっと見つめている。


「神宮司に勝つ為に、努力していたつもりだった。だけどあいつから、スタメンの座を奪えないから弱小校に逃げたんだろ、って言われちまった。自分が気持ちよくなりたいがため、自己中だ、ってな」


 無機質なタイル張りのトイレの外からは、ハーフタイムだと言うのに、陽光白崎サイドの歓声が聞こえてきて、ますます駒野場は後がない状況だと思い知らされる。


「その時俺は、何も言い返せなかった。その通りだったんだ。中学の時の神宮司に、サッカーで何をしても勝てなかった。だから俺は、陽光白崎でアイツと一緒にサッカーはする気はなかった。いや、出来なかったんだ。アイツの一緒のチームだと、俺は、スタメンになれないから……」


 それは、いつもどこか強気で、自分のプレーに絶対の自信を持つ男にしては、あまりにも寂しい姿であると、透は感じた。


「でも一番悔しかったのは……駒野場が、弱小校だって言われたとき、言い返せなかったことだ」


 振り向いた達樹は壁に背を預け、ぎゅっと握り拳を作る。


「悪かったな、みんなの足を引っ張って……。監督に言ってくるよ。前半で下げてくれって。後半からは、頼んだ……。お前なら、なんとかチャンスは作れるだろ、涼宮……?」


 そう言って、トイレから出て行こうとした達樹のユニフォームの袖を、透がぐいと引っ張って、引き寄せていた。


「涼宮……?」


 普段物静かな彼からは想像もできない力強さで、達樹は透の腕を離そうとしても、離すことが出来なかった。


「諦めるな……駒野場サッカー部の御子柴達樹。ベンチで御子柴を見ている仲間や、ベンチにすら入れなかったメンバーだっている。そんな人たちの夢を、勝手に終わらせるな」

「でも俺は神宮司には……っ!」


 気づけば、達樹の目には涙が零れていた。汗と涙が混じるその様相は、お世辞にも綺麗なものとは言えないが、同時に、汚くも恥ずかしいものでもない。


「言ったはずだ。俺は御子柴とサッカーできて嬉しいと。御子柴と味方で良かったと。御子柴のプレーを、練習の時から近くでずっと見ているのは、俺や、駒野場サッカー部の仲間たちだ。神宮司に勝ちたいから、駒野場に来たんだろ?」

「でも結果は、アイツには……」


 いつまでも迷いを見せる達樹に、透の語気も上がる。純粋に負けたくない気持ちと、友を奮起させたい。そんな思いが頭の中で混ざり、真っ白になりかける頭が、言葉を次々と浮かび上がらせ、彼に届けと口を動かす。


「まだ試合は終わっていない……! 後半戦があるだろ! 過去の自分に勝て、御子柴!」

「お前……っ。何でいつも静かなのに、サッカーになると、そんなに熱くなるんだ……!?」

「同じだ、御子柴。俺は御子柴と一緒でサッカーが好きで、そして負けず嫌いで、何よりも仲間が苦しんでいるのを見ていられないんだ!」


 血流激しく鳴る心臓の音にだけが響く、一瞬だけ、その場がしんと静まり返る。

 気づけば、達樹の胸倉をつかんでいた透、そんな透を半泣きの表情でじっと見つめる達樹。


「――ふん、ふーん」


 そんな空気を切り裂くようにして、なぜか鼻歌を歌いながら蓮見翔はすみかけるがトイレにやってくる。


「うわ、びっくりしたなにやってんのお前ら?」


 達樹の胸倉をつかんで壁に押し当てていると言う透の姿に、翔がぎょっとして小さく飛びのく。


「は、蓮見こそ……。こういう時、空気読んで、来ないだろ普通」

「し、しょうがねぇだろ生理現象なんだから……」


 翔はどこかバツが悪そうに、顔を赤くしながら言っていた。

 次に翔は、泣き顔を見られたくなく、咄嗟に顔を隠している様子の達樹を見た。


「にしてもなんだ御子柴あの前半のプレイは? せっかくスタメンなのに、全然ダメじゃんかよ!」

「う、うるせ……」

「俺のライバルがあんな様じゃ、やっぱ俺が駒野場のエースストライカーだな!」

「……うるせーって……」


 何の気なしに翔が便座の前に向かう中、達樹は力ない声で言い返しており、気づけば彼の表情は、どこか吹っ切れているようで。


「悪い……すぐに戻る」


 透にそう、言っていた。

 

「わかった。待ってるからな」

「……あぁ。約束だ。絶対に」


 透は今一度、達樹に力をこめるように、彼の肩に手をぽんと添えてから、その場を去っていた。

 先に追いついてきたのは、後からやってきたはずの翔だった。


「狙ってたのか、翔?」


 透が翔に問う。


「うん? いや、別に……だけどさ」


 翔はしらを切りつつも、歩きながら、真正面をじっと見据える。


「このまま終わりたくないんだ。俺たちの夢を」

「……ああ、そうだな」


 自身の拳をじっと見つめ、そう呟いた透は、徐にその拳を翔に向けて突き出す。

 一瞬だけ、翔は戸惑っているようだったが。


「やろう蓮見。御子柴の為にも、俺たちの夢の為にも、絶対に後半で勝つんだ」

「ああ……涼宮がそう言うんなら、絶対に出来るな。俺たちならさ」


 透と翔は、拳を突き合わせていた。

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