25 駒野場高校 1:1 陽光白崎高校
度會と海藤の両キャプテンが仲裁に入るほどまでヒートアップしだした、元同じ中学同士の二人の様相を、駒野場ベンチメンバーも心配そうな面持ちで見ていた。
「御子柴くんになにか、神宮司さんが言ったのでしょうか……? 御子柴くんの周囲との連携も、全然上手くいっていないように思います……」
「同じ中学出身だ。プライドもあるんだろう……」
遥人が心配そうに呟き、透もぼそりと呟く。
「いつもの御子柴じゃないよな、あれ……」
翔ですら心配そうに見守るほどだ。
一方で、スタンドに座り、実の弟、神宮司奏多を見守る姉の神宮司遥香は、隣に座る駒野場高校の生徒、毬本澪に聞こえる声で呟く。
「つまんなそう、奏多。真剣ってわけでもないし、タスクをただ淡々にこなしてるって感じ」
「昔から、神宮司君はあんな感じでサッカーをしていたんですか?」
サングラスをかけたまま(一応、遥香にはつけたままで失礼しますと断りを入れている)毬本が聞く。
「ううん。小学校の時までは楽しくやってたはずだけど、中学になってからはだんだんと今みたいになったって感じ。日本代表とかに呼ばれて、楽しいはずのサッカーがいつしか失敗できない仕事みたいになった、って感じじゃない?」
「なるほど……。活躍すればするほど、社会的な責任感とプレッシャーはありますもんね……」
「そーそー。まあ、大人になるってこういう事よ」
「……」
楽しいだけがサッカーではない。有名になればなるほど、自身の行動には責任が伴う。それをまざまざと見せつけられているような気がして、毬本は胸に来るものを感じていた。
――だから、だからこそ目の前に立つ御子柴達樹を、神宮司奏多は否定した。
かつて天才と称されて日本代表として世界大会に挑み、しかしそこで世界との壁に直面し、試合後にピッチの上で仰向けに倒れたまま動かなくなり、早くに引退したそんな人物も、サッカーを楽しめなくなったから引退を決意したと語った。無論、自分がそんな立ち位置に立ったと言うわけではないが、そんな彼の言っていたことが、高校生になった今ならよく分かる。
(俺にはわからないんだ、御子柴……。なんでそんな苦しそうになってまでサッカーをする? 勝てないとわかっていて、怪我をしたり、身体を痛めたり、時には激しいブーイングに晒されながらも、それでもこんなスポーツに生涯をささげる意味を……)
それでもお前と戦えば、何かが変わるかもしれない。ひょっとしたら、と思ったこともあった。それが、前半の失点直後の、あのよく分からない感情だ。
――だがそれも、今ではもう無駄な感情だと、よく分かった。
「神宮司!」
味方からパスを受けた神宮司は、そっと自身の足元のボールを見つめ、そして静かに前を向く。
「御子柴。――俺はお前を否定する。それがこの答えだ」
そうして神宮司が放ったシュートは、GKの手に届かず、駒野場高校のゴールネットに突き刺さる。
1-2。前半のうちに駒野場高校は逆転を許すのであった。それはただの追加点ではなく、達樹の、そして駒野場の心をへし折るために放たれた、答えのような一撃だった。




