23 駒野場高校 1:1 陽光白崎高校
あっという間に同点に追いついたことで、陽光白崎高校のスタンド席の応援の声は最高潮を迎えつつある。もともと県大会出場常連校という事で、サッカー部の人気自体も高く、何よりも神宮司奏多を初めとした甘いマスクのルックスの持ち主たちに、黄色い声援を送る人々も多くいた。
「……」
そんな熱狂に包まれる観客席の端っこ。目立たぬ位置にぽつんと座る、黒いサングラスに白いマスク姿に目深帽をした、真剣にスマホで試合の様子を撮影している極めて怪しい身なりの女子がいた。
「――隣、いいかな?」
そんな極めて怪しい、声を掛けることも憚られるような風貌の女子の隣に声を掛けて、座り込む同い年くらいの女子。
「あ、どうぞどうぞ……」
白いマスクをそっと抑えつつ、ぺこぺこと怪しい女子は席を譲ってあげる。
「めっちゃ変装してるみたいだけど、有名人?」
「え、いえいえ! そ、そんなことありません……」
顔をぶんぶんと横に振り、声を掛けられた女子は必死に否定する。
「じゃあ、奏多のファン?」
「陽光白崎高校のCFですね。いえ、わたしは駒野場高校のファンです」
「うっそ。わざわざここまで一人で来てるんだー。凄いね?」
「そんなことありません」
怪しい女子――毬本澪は、駒野場高校サッカー部の応援にわざわざ隣の市の陽光白崎高校にまで現地観戦に来ていた。本当は初戦も見に行くつもりだったのだが、スケジュールが合わずに断念。2試合目はまさかの一般人立ち入り禁止で、ようやく3戦目にして現地観戦がかなったのだ。
「貴女は、神宮司奏多君のファンですか?」
女子人気の高さから、隣に来た私服姿の女子もそうなのだろうかと思って聞いた毬本だったが、その女子は腹を抱えて笑い出す。
「あははは! アイツのファンって、ウケる!」
そして次には周囲をきょろきょろとし、小声で耳打ちをするのだ。
「あたし実はね、奏多の姉。神宮司遥香って言うの」
「え、あ、そうなんですね」
「向こうじゃ人多いし、こっちは静かで人目につかないから来たんだー。それに、あたしが隠れて応援来てるって、奏多が知ったら恥ずかしがるでしょ?」
「弟さん思いなんですね」
毬本が警戒心を解いた様子で聞く。……どちらかと言えば警戒されるのは今の自分の方ではあるのだが。
格好的な意味で。
「思いって言うか、心配って言うか、ねぇ……」
どこか遠くを見つつ苦笑して、遥香は交差させた膝の上に腕を乗せ、頬杖をつくようにしてピッチを見下ろす。
そこでゴールを決めて仲間から褒められながらも、どこか冷めた表情を浮かべる神宮司奏多の姿があった。




