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シャイゼリアで四人席に座り、絶品のイタリアン料理に舌鼓を打つ駒野場サッカー部の4人組。
机の上には所せましとイタリアン料理が並び、しかし食欲旺盛な4人組によって次々食べられていく。
「僕たちの本当の目的を、皆さん忘れないようにしましょうね……」
遥人がお上品にスプーンとフォークを使ってパスタをくるくると巻きながら、苦笑している。
「雪乃こそ、ていうかお前本当に痩せたな。ちゃんと飯食ってんのか?」
達樹がユーべ風ドリアをスプーンで食べながら、遥人をまじまじと見て言う。
「え、そ、そうですかね……? サッカー部の練習が、ハードですからね……!」
痩せていると言われ、まんざらでもなさそうに嬉しそうな表情を見せている遥人であった。
「追加でチキンとハンバーグと……みんなもまだ食うだろ!?」
翔は口の端に食べかすを作りながらもぐもぐとしつつ、まだ追加注文するつもりらしい。スマホでQRコードを読み取り、ひたすらにメニューをタッチしている。
その一方で透は、ドリンクバーでドリンクをおかわりしに向かっていた。
「あ……」
そこで氷をグラスに入れている最中の、神宮司奏多と遭遇する。
神宮司は順番待ちしていた透に気付くと、「どうぞ」と氷用のトングをそっと手渡してきた。その一瞬だけ、目と目が合って、
「あれ。さっきいたっけ……?」
向こうはこちらをうろ覚えであったらしい。気にしない、慣れている。
「いました。駒野場サッカー部の、涼宮透です」
「俺のことはもう知ってるっぽいけど、神宮司奏多だ。日曜は改めてよろしく」
動画で見ているような人物が生で目の前にいるのは、どこか不思議な感覚でもあった。
「試合に出られるかはわからないけど、よろしく」
神宮司はドリンクバーのホルダーにグラスを置き、炭酸ジュースのボタンを押す。横目で、ちらと透を見てから、
「ポジションは?」
「MF。あなたの事は御子柴から聞いている。御子柴はあなたの才能を羨ましがっていたよ」
「才能って……。大袈裟だな、御子柴は」
神宮司は苦笑していた。
「あいつといると疲れるだろ? 中学の頃からずっと、将来はサッカー選手になろうぜってうるさいんだよ」
「いや全然。御子柴はいい奴だよ」
「ま、真顔かよ……」
恥ずかしげもなく言う透に、神宮寺は少しだけ戸惑う。
「逆にあなたは、プロサッカー選手になる夢はないのか?」
グラスに氷を入れ、ひんやりとする手元の感触を味わいながら、あえて透は尋ねる。
「さっきも言ったけど、ないね。仮に運よくなれたとしても、試合で活躍できなくちゃ文句を言われる世界だしね。嫌なんだよ俺、そう言うのさ」
「確かに、SNSやGoTubeで見るサッカーのハイライトも、たった一つのミスでコメント欄は大バッシングの嵐だしな。ひどいときは、殺害予告までされてしまう」
透が少しだけ残念そうに呟く。お金を貰って戦うプロのサッカー選手において、ミスをしたら叩かれるのは当然の世界だと言わんばかりに、目立ったミスはまるで親の仇のように叩かれる世界。しかし誰も望んでミス等したいはずもなく、その人にとっては残酷な現実が待っているのだ。
「選手生命だって35歳くらいがいいところだろ? それまでにAチームでお金稼いで名声も得られればいいけど、リスクが大きすぎるよ。それだったら安定した生活を送りたいね。お金もそんなにいらないしさ」
「なるほど」
神宮司のその言葉は、夢を追う高校生らしからぬ冷や水に思えるが、正しい意見でもあった。
プロサッカー選手の平均引退年齢は、20代後半から30代前半が多い。一握りの天才が引退後のセカンドキャリアで困らないほどの財を成す一方で、その他大勢は30歳前後でキャリアのリセットを余儀なくされ、労働市場に未経験として放り出されるのが現実だ。
「御子柴は何か誤解してるみたいけど、俺はなにも別に、誰かがプロサッカー選手になるって夢を否定するつもりはないよ。御子柴の事も応援してるしね。でも、俺には俺の人生があるんだ」
神宮司は冷めた表情で、グラスに並々注いだ炭酸ジュースを見つめていた。いくつもの泡がグラスの底から浮かび上がっては弾けて、消えていく。
「あ……今の本音は、明日の陽光白崎のチームメイトには内緒にしてね? キャプテンのゴールキーパーの海藤先輩に聞かれると怒られちゃうからさ」
次には嫌みの無い笑顔を見せ、神宮司はグラスを両手に持つ。連れの女子の分も持っていくつもりのようだった。
「彼女さんを待たせてしまってごめん」
「彼女?」
透が気遣って言っていたのだが、神宮司はきょとんとしたのち、思わずと言った様子で、豪快に笑う。
「ははは。彼女に見えたのか、あれ。俺の姉貴だよ」
「お、お姉さんだったんだ……」
つくづく、サッカー以外の事では物事を見る目がないと痛感する、透であった。
そんな透の事を、今度は神宮司がじっと見つめる。
「いろいろ俺から教えたし、逆に君の事も聞かせてほしいな。君はどっちなんだい? 本気でプロを目指しているのか、それとも、俺と同じく惰性でやってるのか」
「……」
やる気のない天才、神宮司から問われた透は、彼をじっと見つめ、答える。
「それはもし俺が試合に出られたら、フィールドの上で教える」
「……まるで御子柴みたいな事を言うんだな、君も」
まさかの返答だったのだろう。一瞬だけ拍子抜けした様子の神宮司はこちらを見て、苦笑していた。




