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涼宮透と毬本澪は、それぞれ片手にポカリの缶とジュースのペットボトルを持ち、エントランスのドアを透が持っていた鍵を使って開錠し、エレベーターホールまで向かう。
「オートロック付きのところ初めて住むから……。ちょっと飲み物を買いに下の階まで行って、ちょうど外に出たタイミングで鍵持ってきてないことに気付いて、締め出されちゃって……」
とほほ、と毬本は恥ずかしそうに俯きながら言っている。
「玄関に鍵を置いておくといいですよ。磁石とかで張り付けると、外出の時に必ず持ち出せると思います」
「あ、確かに! 自分でセキュリティがしっかりしてるオートロック付きのマンションを選んで引っ越したのに、そのセキュリティにやられるなんて……最悪だよもう……」
まるでゲームか何かの実況をするかのような流暢な状況説明を行うような解説口調に、透はサッカーの女性解説者のような印象を抱いた。
「でも、知らない人じゃなくて涼宮くんで良かった! 遅かれ早かれちゃんと挨拶したいって思ってたから!」
「何分ぐらい締め出されていたんです?」
「たぶん10分くらいかな……」
「今のご時世、変な人とか多いですから、気を付けて下さいね」
「はい……」
毬本は本当にありがとう、と深くお辞儀をしてくる。
「ところで……なんで、敬語?」
次には顔を上げて、訝し気に見てくる毬本。
「失礼、しました。なんか、敬語になってしまって」
「全然! むしろ私がフランクすぎる?」
「いえ、そんなことはないです」
「じゃあため口でいいよ全然! 同い年だし、同じクラスだしさ」
「うん、わかった」
そうこうしているうちに、エレベーター前まで到達する二人。
呼び出しボタンを押してから透は、念のためにこんなことも訊く。
「俺、階段で行こうかな」
「なんで!? 同じ9階だよね!? 疲れるよめっちゃ!?」
「……汗臭い、かもだし」
「全然気にしないよ!? むしろ10分外にいた私の方が……」
汗臭いかも、と言いかけた毬本はそこでまた自滅するかのように赤面し、ううう……と口をごもごもとする。明るい性格で感情表現が豊かで、誰からでも印象に残り、話すのも慣れている様子。まるで自分とは正反対の様であると、透は感じていた。
やがてエレベーターが1階に到達し、入れ替わりで降りてきた人の目もあって、エレベーター前で待っていた透は今更方向転換して階段で登ることもできず、そもそも部活で足も疲れていたため、エレベーターに毬本と一緒に乗ることになる。
「どうぞ」
「ありがとう!」
毬本を先に中へ入れてやり、遅れてから中に入り、9階のボタンを押し、ボタン前の位置でじっと立つ。
毬本は斜め左後ろのポジションについている。
「……」
「……」
そして無言の時間帯が続き、透は背後に立つ存在感に、謎のプレッシャーの様なものを感じていた。
「サッカー部、週末に地区予選の決勝戦だよね?」
「うん」
「勝てば県大会出場だよね?」
「そう。インターハイの埼玉県大会に行けるんだ」
疑問形のわりには、かなり確信をもって聞いてきている。
「今の質問もだけど。引っ越しでくれたお土産が、Jリーグのスタジアム限定のやつだった気がするんだけど、サッカー好きなの?」
後ろをちらりと見て、透は尋ねてみた。
「うん! めっちゃ好き!」
明るい即答であった。お世辞ではなく、本当に好きなのだろうと感じられた。
「めずらしいね。女の人がサッカー好きなんて」
「えーそうなのかな? わたしはどの年代でもサッカー好きだし、よく見てるよ」
「高校サッカーも?」
「うん! 何より私も小学校時代はサッカーやってたんだ。中学校は、女子サッカー部自体がなくてやめちゃったんだけど」
「……同じなのか……」
そのやめちゃった理由は、同じではないが。透は毬本には聞こえないほどの声量で、呟いていた。
9階につきエレベーターから降りた透と毬本は、通路を歩き、毬本が先に玄関前にたどり着く。
「涼宮くんサッカー部だし、今度またちゃんとサッカーの話しようね! あと、今日は本当にありがとう! 助かりました!」
「こちらこそ、ポカリごちそうさま」
「じゃあ、また学校で!」
「気をつけて」
「もう家の中だから大丈夫だよ!」
そうして手を振って、毬本はドアを開けて家の中へと帰っていく。
透もまた、隣の部屋へと帰って来たのだが。
「!? ……ま、また忘れてた……」
対面の印象が強烈すぎて、またお返しを渡し損ねたことを、玄関に入ったタイミングで思い出すのであった。いや、これはど忘れと言うよりかは、どちらかと言えば、緊張によるものだっただろう。




