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サッカー部の練習で日が暮れる時間になってしまったため、隣人として越してきたと言うクラスメイトの毬本澪に結局お土産のお返しは渡せぬまま、涼宮透は駒野場駅から電車に乗って帰路についていた。お気に入りの音楽をワイヤレスイヤホンで聴きながら、透は電車の中で吊革に掴まる。
最寄り駅で降りて、閑静な住宅街を歩いて自宅マンション前まで向かうと、11階建てのマンションの足元にある自動販売機の横で、何やら不審な人影が、何をするわけでもなくじっと立っているのが目についた。日も落ちており、ここからでは何者なのかよく分からない。一方で街灯はこちらを照らしており、位置的にも向こうからこちらの姿は視力が悪くない限りよく分かる立ち位置であった。
「……?」
気持ち右手に持つスマホの音量を下げて音楽を小さくし、不測の事態が起きてもすぐ対応できるようにしつつ、なんともないふりでマンションの入り口に近づいていくと、その不審な影は自販機の横に隠れるような……しかし飛び出して来るような、フェイントまがいの行動をしている。物凄く怪しい。
やがていよいよ、自動販売機の真横まで透が到達すると、その人影は右手を掲げて襲い掛かって――は来ず、力なくふりふりと振って来た。
「あ、こ、こんばんは……」
「え、毬本さん?」
毬本澪。クラスメイトの女子が、上下グレーのスウェット姿にサンダル言う、学校での清楚な制服姿とは180度真逆のいで立ちで、立っていた。
「い、今帰って来たところ涼宮くん……?」
どこか落ち着きなくそわそわしながら、極めて不自然に毬本は聞いてくる。
「サッカー部で遅くまで残っていたんです」
透は立ち止まり、答える。なぜか同級生の相手なのに敬語となってしまう。
「あ、えっと、お母さんに挨拶はしたんだけど、隣に住むことになった毬本澪です! 引っ越してきてから隣の人が涼宮くんだって知って、こんな偶然あるんだー! なんて……」
「確かに、偶然ですね」
「あはは……」
「……」
相手の格好があまりにも学校で見る姿とかけ離れており、まだ理解が追いついていない。そもそも自動販売機の横で、毬本はずっと何をしていたのだろうか。
「では、これで」
なぜか頭をぺこぺこ下げて、透はエントランスに向かおうと正面階段を上がるが。
「あ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってっ!」
毬本は慌てた様子でぺたぺたとサンダルの音を鳴らし、階段を上がろうとしたものの、見事な切り返しでいったん自販機へ。手に持っていた財布から手当たり次第に小銭を入れて、何か飲み物を買おうとしているようだ。すでに手に一本のジュースを持っていると言うのに、追加で買うつもりだったのだろうか。
「喉渇いてるでしょ!? な、なにか好きな飲みものある!?」
「え……?」
「な、なんでもいいよ!」
「アクエリアス……」
「アクエリ……ない。ええっと、ポカリでもいい!?」
「はい」
ぴっぴっぴ、と音を鳴らし、ポカリの缶を持ってきた毬本。
「ええっと非常に恥ずかしいんですけど……じ、実は……」
手に持ったポカリをそっと透に手渡しつつ、毬本は赤面し、告白してくる。
「オートロックなの忘れてて、締め出されてたんです……」
「なるほど」
ひんやりと、受け取ったポカリの缶はとても冷たく、変に火照っていた身体の熱を急激に冷ましていた。




