9
放課後。週末の地区予選決勝戦に向け、今日も激しいトレーニングを駒野場サッカー部は行っていた。
SBのポジションから素早いスプリントで駆け上がる遥人が、御子柴達樹にクロスを上げる。
「御子柴くん!」
「このっ!」
達樹が振りぬいた左脚は落ちてきたボールにジャストミートし、ゴールネットを強襲する。
ナイスー。と言った声がそこかしこで聞こえてくる中、達樹はゴールネットを睨み、ハァハァと口で荒い呼吸を繰り返す。
傍から見ても人一倍練習に力を入れているのは誰の目から見ても明らかであり、
「御子柴くん、少し飛ばしすぎていますね……。いつもの彼の平常データからすると心拍数の増加は異常です」
「まあ、相手校には同じ中学校の神宮司くんがいるから、気持ちはわかるよ」
「かつてのチームメイトだからこそ、負けられないと言うこと、でしょうか……こほっ、こほ」
心配する神楽坂と、見守る鷲田が会話しているが、神楽坂はどこか体調不良そうに、咳をすることが目立っていた。
「大丈夫、神楽坂ちゃん?」
「は、はい。少しだけ喉を痛めてしまったみたいですが、大事ありません」
様子がおかしいのは彼女だけではない。練習途中の給水タイムで、涼宮透は達樹に声を掛けていた。
「御子柴。怪我だけはしないようにね」
「わかってる涼宮。でも、神宮司たちに勝つ為には、多少は無茶もしないと。あの怪物は、俺たちの想像を遥かに超えてるからな」
どこか切羽詰まった様子の達樹を、透は心配そうに見る。
「俺も油断はしていない。必ず勝って、県大会出場をつかみ取りたい」
「ああ。……もう俺は、神宮司のオマケとはもう言わせないつもりだ」
「……御子柴。お前は別に、神宮寺のオマケなんかじゃない」
「……とにかく、俺は平気だ。それよりももっと練習しないと、陽光白崎には勝てねぇ」
給水タイムが終わり、再び流れの中での動きの練習。中盤のパス回しに加わり、いざ正面を向こうと、達樹がドリブルを開始する。同級生メンバーを躱し、ペナルティエリアの向こう、ゴールネットを睨むが。
「え……神宮司……?」
背番号10の、柳瀬川第七中サッカー部のユニフォームを身に着ける神宮司奏多の幻影が、達樹の前をボールを蹴って進んでいく。
「御子柴?」
急にプレイが緩くなった達樹に、周囲の味方も戸惑いかける。
一方で達樹は、足でボールを蹴り、どんどん遠くなっていく神宮司を追いかけるように、走っている――つもりだった。その背中に追いつこうとしても、いつまでも、追いつけない。一向に埋まることのない差が、そこにはあるようだった。次に、神宮司が大きく足を振りぬき、ゴールネットを揺らす。達樹もまたそれを模倣するようにして、同じようにボールを蹴り込んだ。
「――あーっ」
達樹が蹴ったボールは、ボールポストに弾かれ、明後日の方向に飛んでいった。
ボールが弾んで遠く跳んでいく音。そして周囲の人の、残念がる声。神宮司にパスを渡しておけば……――などと言った、そんな幻聴も、聞こえてくるようだ。
「ハアハア……。今のは、一体……」
達樹が顔を必死に左右に振り、何かを振り払うかのように、汗を飛ばす。
どんまいどんまい、などと言う声が今は、遠くで聞こえているようだった。




