9 奇数チーム 2:1 偶数チーム
一点を返した偶数チーム。その立役者こそ、涼宮透と蓮見翔であった。
「やるじゃないか」
奇数チームの御子柴達樹がそんな声を掛けてくる。
その声の宛先は紛れもなく、翔……ではなく、透であった。
「え、俺? もしかして、俺に言ってる?」
しかし視線的には自分が含まれていると錯覚しても可笑しくはない翔は自分を指さし、いやーそんなことはーと嬉れし恥ずかしそうに身体をやや気持ち悪くくねらせて喜んでいる。
……それでいいのか現役サッカー部員よ……。
「……」
透は小さく頭を下げて、達樹の賞賛に答えた。
「でも、勝つのは俺たちだ」
達樹もまた、元サッカー部員としての意地とプライドを示すばかりに、再びボールを蹴り出す。
迷うこともなく、そのドリブルは力強く、道を示す。
(やっぱり、来るか……!)
思っていた通りだ。
先ほどは奪取を許した透の方へ、意図的にドリブルして迫ってくる。
今度は同じように奪われまいと、突破を成功させ、実力の差を示そうとしているのだろう。
透は静かに息を呑み、向かってくる達樹の全体を、視界に強く収める。
もはや周りに何も感じず、透と達樹、二人だけの世界に入り込んだかのように。
「お前もサッカー経験者か?」
「そうだ」
「はは、どうりでだ! 実力を隠してやがった!」
「偶然かもしれないだろ?」
「いいやあれは偶然なんかじゃない。たったの一瞬でもわかった。お前は強い!」
……まさかそんな素直に褒められると照れてしまう。
と、軽く首を横に振った透は、改めて意識を集中させる。
達樹の表情から上半身。そして、下半身へと。
動きを、見切る。
「……貰った」
ぼそりと呟いた刹那、透が一瞬のステップで、再び達樹の足元に自身の足をそっと通す。
ボールは吸い寄せられるように、透の足元に収まり、再び達樹は奪取を許した。
「!?」
またしてもボールを奪われ、驚愕する達樹をしり目に、再び透はドリブルで前進を開始した。
「やっぱすっげー!」
遠くで、翔が賞賛の声をあげる。
しかし彼は、今度は大勢のDFに囲まれて、マークされてしまっている状況だ。
「蓮見をマークするように指示を出したのか」
ちらりと、後方から猛追してくる達樹を睨み、透は呻く。
先ほどは拍子抜けから遅れをとった達樹も、今度は前線へ運ばせまいと、猛ダッシュして追いかけてくる。その脚力は、ドリブルしながらのこちらを遥かに凌駕し、透はあっという間に追いつかれてしまう。
「スピードはこっちの方が上みたいだな!」
こちらはろくに中学時代は運動してなかったから、当然だ。それにそもそもそこまで足が速いわけでもない。
勝ち誇った笑みを浮かべる達樹は、鋭いカマの用にしなやかな左足を伸ばし、こちらの足元のボールを後方斜め右から刈り取ろうとしてくるが。
「っ!」
「なっ!?」
透はボールを浮かせて自身も軽く跳ね、達樹の脚を躱してみせた。
「……っ」
透は追いすが樹を躱しきると、敵陣サイド深くまで駆け上がる。
相変わらず連動してついてくる味方は少ないが、それも予想通りだ。
「待て!」
追いかけてくる相手DF二人を、逆脚の急ターンで意表をつくステップを行い、置き去りにすると、中央突破を試みる。ずるずると、砂利で靴が滑る音とともに、相手のDF二人は盛大にコケていた。
「そりゃ滑るよな」
ぽつりと小さく呟いた透は、狙いをゴールネットに向ける。
右足を大きく振りかぶって、一瞬の間のあと、力を込めて強く蹴る。
空白の三年間を埋める、透の久しぶりのシュートは、相手のゴールネットを確かに揺らしていた。




