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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第58話 月彦の『その後』

あの騒動から3週間後―――――


隼人隊副隊長・大隅幸はある場所へと足を運んでいた

辺りは木々に囲まれ、鳥の鳴き声だけが静かに響き渡る小道を歩み進めると、そこに簡素で小さな建物が姿を現した


その古びた建物に近付き、幸はゆっくりと戸を叩いた


そして戸が開けられ現れたのは―――月彦の使用人・椿だった


「はい―――これは幸様。ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」


椿は丁寧にお辞儀をし、幸を迎え入れた


幸は軽く会釈を返し、椿の後に続いて家の中へ入る


建物の中は、老朽化が進み所々古さを感じさせるものの、綺麗に整えられ様変わりしていた

恐らく椿が1人でここまでしたのだろう


様変わりした空間に、幸が内心感心していると、あるドアの前で止まり、椿が戸を叩いた


「―――月彦様。隼人隊の幸様がお見えです」


「ああ、通してくれ」


そして戸を開けると、そこにはあの賽河月彦がいた


以前より若干痩せているものの、顔色は良く付き物が取れたかのように表情もより柔らかになっている


ベッドの上で読書をしていた月彦は、幸を見ると笑顔を見せた


「久しぶりだね幸君。あの時以来か」


「はい。賽河様は怪我の具合はどうですか?」


「まあまあかな。傷は痛むし両腕が無くなって不便はしているが―――椿が居てくれてるからね。助かってるよ」


そう言うと椿が継いだお茶の湯飲みを月彦の口元に近付けると、月彦も自然な動作で口を寄せお茶を飲む


その息の合った動作に、主人と使用人の域を超えた深い絆を感じ、幸は安心したように微笑んだ


「そうですか。なら安心しました」


「でも正直、僕の処分が黄泉守人及び御三家追放、そして隼人隊の敷地内への軟禁程度で済むとは思わなかったよ。もっと重い処分を覚悟していたんだけどね」


「貴方が起こした騒動は狭間の世界全体を巻き込むものではありましたが、それでも死者が1人も出なかったのが大きいです。後は貴方の生い立ちや境遇に同情する者たちも大きかったのもありますね。後、反対派に関しては、比良坂様と大神様が物理的に黙らせましたし」


幸の最後の発言に、その状況を想像した月彦は、思わず軽快に笑い声を上げる


やがて自嘲とも後悔ともつかない笑みを浮かべ、小さく息を吐いた。


「つくづく僕は、いろんな人々から心配されていたんだね。それに気づけなかったのは、僕の罪だ。これから長い時間をかけ償っていくよ」


「貴方はあっさり死罪にしてしまっては惜しい存在だ。これからキッチリ我々に利用されてもらいますよ。それが賽河様が生かされた理由なのですから」


そう言われ、月彦は一瞬目を丸くすると、吹き出すように笑った


「ははっ。お手柔らかに頼むよ。だが僕はこの身だ。いずれは優秀そうな人材を見つけ、養子にし、ゆくゆくはこの研究を継いでほしいんだけど――――幸君どうかな?僕の研究を継ぐ気、無い?」


「俺が、ですか!?でも俺は隼人隊の副隊長ですし、兄者を支えなければ………」


突然の月彦の提案に戸惑い、しどろもどろになっていると、月彦はクスリと笑った


「まだ時間はたっぷりあるさ。幸君が大丈夫だと判断出来たら、また連絡くれないかな?」


「まぁ………考えておきます………」


幸は小さく返事を返すと、ある事を思い出し顔を上げた


「…………あ、そういえば賽河様。実は1つ、ずっと腑に落ちない事があるんです」


「なんだい?」


「賽河様を助けたあの日―――菊理様は霊剣・韴霊剣(ふつのみまたのつるぎ)を用いて賽河様に憑いていた穢神を祓いました。いくら共有の括り紐を身に付けていたとはいえ、あれだけの霊剣を扱えば命を削る程の代償があったはず――――なのに菊理様は括り紐の代償以外、何も起こらなかった。あれは何故だったのでしょうか?」


幸からの疑問に月彦は大きく頷くと、こう答えた


「ああ、アレはね、福咲鹿以外に霊力を肩代わりした存在がいたんだよ。人知れずね」


「福咲鹿以外に………ですか?」


幸は首を傾け尋ねると、月彦は小さく頷き、意味ありげに笑みを浮かべた


「うん。あの精神世界にいた時、穢神・炎獄と融合しかかっていた僕には見えたんだ。菊理さんと福咲鹿と―――もう1人存在していた事に」


月彦の意味深な発言に更に謎が深まった幸は、眉間に深くしわを寄せる


「?それはどういう事です?」


「そのうち分かるさ。あの時恐らく菊理さんも、まだ気付いていなかった筈だけど―――――時期的にそろそろ、気付くんじゃないかな。ま、彼女達からの報告を待っていると良いよ」


そう笑顔で答える月彦を、幸は不思議そうに見つめるのだった

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