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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第57話 和解

その頃――――


嗣臣と道之、そして海・幸兄弟は、菊理の糸によって幾重にも巻かれた巨大な繭のような物体を、固唾を飲んで見守っていた


「あれから結構時間が経ったと思うが……うんともすんとも言わねぇな」


道之が顎に手を当て、見つめる


闇夜に包まれたこの空間で、淡く銀色に光続けるその繭に、迂闊に近づく事さえ出来ないでいた


「中でおっ死んでるってこたぁねぇんだろうな?」


「兄者、縁起でもない事を言うな。菊理様の糸がこうして形を留めているのだ。生きておられることは間違いない」


無神経な物言いをする兄を幸が嗜める

そしてチラリと横にいる嗣臣を見た


彼も、心配そうに繭を見つめており、その拳は固く握られていた


「…………菊理」


嗣臣がぽつりと名を呟いた、その時だった


パキッ!

急に乾いた音が響き渡り、繭の表面に亀裂が入り始めたのだ


「な、なんだぁ!?」


「なんか来るぞ!幸!構えろ!」


道之と海・幸兄弟が警戒し構える


しかし嗣臣だけは動じずに冷静に呟いた


「いや、待て。これは………」


次の瞬間、繭は真っ二つに割れ、無数の糸が光の粒となって宙へ舞った。


そして繭が完全に開き現れたのは―――菊理と両腕の無い月彦だった


「菊理!月彦!」


皆急いで2人の元へと駆け寄る


素早く月彦の元にたどり着いた道之は直ぐ様顔を上げ、嗣臣に向けて叫んだ


「おい、こんなナリだが月彦は無事だ!お前は菊理んとこ行け!」


道之にそう言われ、嗣臣は菊理の元に駆け寄り身体を抱き起こす


「菊理!大丈夫か!?」


菊理の身体を優しく揺さぶると、彼女の瞼がゆっくりと開き、ぼんやりと嗣臣を見つめた


「―――嗣……臣…さん?」


「大丈夫か?身体に異変はないか?」


嗣臣の問いかけに頷くと、菊理は安心したように微笑んだ


「はい……良かった……私、ちゃんと嗣臣さんの事、覚えてます」


「……今、その心配をしている場合ではないだろう」


呆れたように言いつつも、嗣臣の表情には安堵が滲んでいた


「……だが、良かった……」


そう言って嗣臣は、ゆっくりと力を込めて、菊理を抱きしめる


しかしふと、嗣臣はある事に気が付き辺りを見渡した


「そういえば、福は何処に行ったのだ?見当たらないが……」


「福ちゃんならその剣が……」


そう言って菊理は、少し離れた所に置かれた剣に目線を移した


「剣?」


嗣臣が剣に視線を向けた瞬間、剣が眩い光を放ち、見る見る姿を変え、福の姿に戻った


「きゅう!」


「うお!ビビった!そのヘンテコ神獣、剣だったのかよ!」


突然の変化に海は驚き、素っ頓狂な声を上げる


「はい。なんでも韴霊剣(ふつのみまたのつるぎ)とかいう霊剣だそうで」


「霊剣!?こいつが………」


横で聞いていた道之は目を見開き、信じられない様な様子で福を凝視した


すると月彦の応急措置をしていた幸がずい、と菊理に近寄った


「菊理様。本当に身体の異変は何もありませんか?」


「?はい。特に変わりは無いですけど…」


「そうですか………」


幸が何か考え込むような仕草をしていると、遠くから慌ただしい足音と声が響き渡った


「―――――月彦様!」


「椿!なんでお前ここにいる?」


椿の登場に道之が驚いていると、その後ろかろ野太い声が響いた


「主!」


「天鬼!」


巨大化した天鬼が、身体を揺らしながらゆっくりと嗣臣の元へ駆け寄ると、身体をかがみ申し訳無さそうに弁明を始めた


「申し訳ありません。椿がどうしても月彦の元へ行くと言って聞かず、止められませんでした」


その言葉を聞き、再び椿の方へ目線を移す


椿の目の前には、変わり果てた主の姿があった


「月彦様………ああ、この様なお姿になられて………」


あまりの酷さに、椿は思わず口を手で覆った


すると、今にも消えそうなか細い声が、ぽつりと聞こえた


「………椿」


「月彦様!」


名を呼ばれ、椿はハッと目を見開き、月彦に近寄る


「すまなかったね椿。身体が乗っ取られていたとはいえ、君を傷付けてしまった。傷んだだろう?」


「私の事は良いので御座います……!どんなお姿であれ、月彦様がご無事で……良かった……!」


椿は首を何度も横に振り、涙を流した


その姿を見た月彦は、自嘲するように小さく笑った


「……僕は馬鹿だ。こんなにも近くに、僕の身を案じてくれる人がいたのに。それに気づけなかった」


逃れられぬ運命を悲観する余り、周りを見ることを忘れていた月彦は、後悔の念を口にした


すると、流れを変えるかのように、道之が口を開いた


「……ま、それはこれから償っていけ。時間をかけて償って、長生きして苦しめ。それが生かされたお前に出来る唯一の事だ」


「道之……」


ぶっきらぼうだが優しさのある言葉に、月彦の瞳が揺れる


そしてそれに続くように、嗣臣もまた言葉を重ねた


「そうだ月彦。俺も微力ながら協力してやる。お前は孤独ではない。俺や道之もいるのだから」


その言葉に、月彦の目が大きく見開かれる


一度は切ってしまった友人から、再び手を差し伸べられ、月彦の胸はいっぱいになる


「嗣臣………」


月彦は言葉に詰まり下を向くと、震える声で謝罪と感謝を述べた


「皆……ごめん……ありがとう……」


こうして孤独に飲まれた1人の青年を、菊理達は救う事が出来たのだった―――




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