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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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最終話 未来へ続く縁

ある日の事――――

月彦救済作戦の騒動から一段落した嗣臣と菊理は、大神邸を訪れていた


陽の光が優しく差し込む一室で、菊理はあるものを目にし、思わず声を弾ませた


「わぁー!可愛いー!!」


その目線の先には、道之の妻・蓉子に抱かれた赤ん坊がちんまりと収まっていた


以前助けた大神夫妻のお腹の子が、時を経てこの世に生まれ出でていたのだ


「例の作戦中に丁度産まれてな。大変な時に側に居てやれなくて、蓉子には悪い事をしちまったよ」


「あら良いのですよ。黄泉守人は世界の安全が最優先ですもの。それを覚悟で、嫁いで来てますから」


申し訳無さそうに頭を掻く道之に、蓉子は微笑んで返した


するとずっと赤ん坊を見ていた菊理が、うずうずした様子で尋ねてきた


「あ、あの。触っても良いですか?」


「どうぞ。菊理さんはこの子の命の恩人ですもの。遠慮なさらないで」


「では失礼します―――わぁーぷにぷにだぁー!しかもいい匂いがする!ミルクの良い匂いしますよ嗣臣さん!」


子供のように無邪気にはしゃぐ菊理を見ていた嗣臣は、少し呆れたように息をついた


「………菊理。あまりはしゃぐな。たまたまでは―――本当にするな甘い匂いが」


赤ん坊から仄かに漂う甘い香りに、嗣臣が目を丸くして驚く


「ははは!お前ら赤ん坊は初めてか!赤ん坊はこういうもんだぞ」


そんな二人の反応がおかしかったのか、道之が豪快に笑った


すると赤ん坊の頬をつついていた菊理が、目を細め優しく語りかけ始めた


「貴方がお腹にいた時、助けたのは私なんだよー?覚えてるかな?」


その言葉を赤ん坊が聞いた瞬間、それに応えるようにニコリと笑みを浮かべる


「あら、笑ったわ。菊理さんを覚えているのかしらねぇ」


その様子を見た蓉子は嬉しそうに赤ん坊をあやした


微笑ましい空気の中、不意に道之が真面目な声音で口を開いた


「だが、あの時の代償で括り人の力は失っちまったんだってな」


「はい。霊力自体は全く無いわけじゃないですけど、もう糸すら出せなくなりました」


そう言って菊理は自らの掌を見つめる


共有の括り紐の代償―――

それは視力でも記憶でもなく、括り人の能力そのものだった


あの日以来、その役目を終えたかのように、彼女の力は無くなってしまったのだ



「悲しいか?力が使えなくなって」


嗣臣が尋ねると、菊理は首を横に振った


「んーちょっと寂しいけど、こういう運命なんだと受け入れています」


そう言って菊理は、嗣臣に笑顔を向けて答えた


「共有の括り紐をくれた菊理媛命さんが言ってたんです。『括り人は偶然ではなく必然的に現れる存在だ』って。私はきっと、寿美さんや月彦さんを助ける為に、括り人になったんだと思うんです。そして、その役目が終わったから、力も失った―――そう考えています」


「成る程な。そういう考え方もあるな」


菊理の考えに道之が納得し頷いていると、嗣臣が神妙な顔でボソリと呟いた


「………しかしずっと腑に落ちないのは、菊理が霊剣・韴霊剣(ふつのみまたのつるぎ)を使ったにも関わらず、その代償を課せられなかった事だな」


その言葉に、道之をも腕を組み唸る


「うーむ。確かに不可思議だよなぁ。福以外に霊力の肩代わりをしたやつなんかいねぇのに。奇跡が起きたとでも言うのかねぇ」


「でも、その代償なのか、最近やけに眠いんですよねぇ。よくうたた寝してるから、嗣臣さんに心配されちゃって」


少し困ったように菊理が笑うと、何か気付いたかのように蓉子が口を開いた


「…………あ!菊理さんもしかして、妊娠してるって事、ないかしら?」


「へ?」


突然の言葉に、菊理はキョトンとした表情を浮かべる


「そういえば聞いたことがあるの。厄年のような不吉な時期に赤子を宿すと、その厄を祓ってくれるって。霊剣の代償が無かったのは、もしかしたらお腹に命が宿っているからなんじゃないかしら?」


「あはは!いやぁーまさかぁ。妊娠なんてそんな訳―――」


そこまで言いかけたその時、菊理はある事を思い出し、ピタリと動きを止める


そして指を折って何かを数え始めた



「………菊理?どうした?」


「…………え?あ、あれ?嘘っ………」


嗣臣が不審に思い尋ねるも、菊理は何かを必死で確認している


そしてみるみるうちに菊理の顔色が変わっていき、動揺を隠せない中、ゆっくり顔を上げ嗣臣を見つめる


「嗣臣さん……来てないです……」


「?……何がだ?」


「アレです。アレが来てません」


「なんだアレとは?」


話が見えず嗣臣が眉をひそめていると、蓉子が何か察する


「………もしかして、月のものが来てないの?菊理さん?」


「…………はい」


「なんだと………!?」


蓉子の問いに気まずそうに頷く菊理を見て、嗣臣の表情が一気に険しくなる


「いつから………いつから来てないんだ!?」


「え、えっとぉ………もう予定日から2週間くらいは経ってますぅ……………」


「何故もっと早く言わない!」


思わず声を荒げた嗣臣に、菊理は慌てて反論した


「だ、だって忙しくてバタバタしてたし、気にする余裕なくてぇ…………それにまだ私気持ち悪くなってないですよ!?妊娠したら気持ち悪くなるんでしょ?」


「いや、妊娠したらすぐ悪阻が始まる訳じゃねぇぞ?だが、時期的にもう始まってもおかしくはねぇな。デキてればの話だが」


「そうなのぉ!?」


道之の言葉に菊理が思わず声を上げると、隣にいた嗣臣がすくっと立ち上がった


「………道之、奥様。我々はこれにて失礼する。今すぐ医者に診てもらうぞ菊理。そして絶対屋敷から出るな」


「へ?なんで……ってうわぁ!」


次の瞬間、嗣臣はひょいと菊理を抱きかかえた


「外で転んだり、穢鬼に遭遇したらどうする。もう菊理1人の身体じゃないんだぞ」


「いや!まだ確定じゃないですぅ!」


「ほぼ確定だと思うけどな」


「合いの手入れないでください道之さん!」


わたわたと暴れる菊理を抱えたまま、部屋を後にしようとした嗣臣が、ふと思いついたように立ち止まり振り返った


「ああ、それから道之。お前の妖獣を貸してくれないか?お前が所有していた妖獣の中に大型の鳥の妖獣がいただろう」


「いや、それは自分のやつ使えよ」


「何かあったらどうするのだ。空を飛ぶものの方が安全性が高いだろう」


至って真面目に返す嗣臣に、道之は呆れたような視線を向けた


「過保護かよ」


「過保護で何が悪い」


「一旦落ち着いて下さい嗣臣さん!」


屋敷の中に、菊理の悲鳴にも似た声が響き渡った



その後―――

医者に診てもらった結果、正式に菊理の妊娠が判明したのだった


突然の事に2人は戸惑いつつも、喜びを噛み締めた


そして後に、比良坂家に嗣臣ソックリの男の子が誕生するのだが―――


それはもう少し先の話である






黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜完

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