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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第54話 支配する穢神

「速度を落とすな!そのまま―――そのまま月彦を捕らえろ!」


嗣臣の叫びと共に、菊理は力の限り短剣を月彦の肩に突き立てた


「ガアァァァァァァァァァ!!」


月彦は叫び声を上げ、菊理を振り落とそうとするが、既に菊理の霊力の糸が彼に巻かれ始めていた


「…………っ!………後、もう少しっ………!」


菊理は振り落とされそうになりながらも、糸を繋ぎ月彦に巻きつけていく


左手首につけた共有の括り紐が霊力を強く使えば使う程、光り輝き熱が籠る


その輝きが、それだけ霊力を酷使する事を物語っていた


そしてその様子を、少し離れた所で海・幸兄弟が見守っていた



「…………やった!やりましたよ兄者!菊理様の糸が賽河に繋がれ始めています!」


「喜ぶのはまだ早ぇ。むしろこっからが作戦開始なんだからよ」


思わず声を弾ませ喜ぶ幸を、海は諫めた


そして彼はふと、作戦会議の際に菊理が提案した作戦内容を思い出していた――――



――――――――――――――


「それなんですけど……こういうのはどうでしょうか?結界内での戦いは、わざと負けるんです。そして結界から出てくる瞬間を私が狙います」


「わざと……負ける!?」


菊理の大胆な提案に一同は驚きを隠せない


「………お前それ正気か?」


「はい。でもそれが一番、月彦さんの不意を付けると思います」


信じられないと言わんばかりの視線を向ける海に対し、菊理はハッキリと答える

そこに迷いは無いようだ


「いや、だが失敗した時の代償が大きすぎんだろ?それに賽河の狙いはあんただぞ?」


「でも月彦さんを油断させた方が確実だと思います。きっと月彦さんは、強者である嗣臣さんと道之さんの事を警戒はしても、私みたいな弱者の存在は警戒してないと思うんです。しかも嗣臣さん達を倒してからの状況なら、ほんの少し殺意が緩むはず――――大丈夫です。私には福ちゃんもついてますから」


すると意思の変わらぬ菊理の様子を見ていた嗣臣が、静かに口を開いた


「………分かった。その手で行くとしよう」


嗣臣が許可したことに、一同は驚き、一斉に彼を見た

すると幸が心配そうに尋ねた


「よろしいんですか比良坂様。菊理様を危険に晒すことになりますよ?」


「……今は菊理を信じる。だが菊理」


嗣臣は菊理を真っ直ぐ見つめこう告げた


「もしもの事があったら、俺が月彦を殺す。良いな?」


「………はい」


こうして菊理の作戦は、たった今実行されたのである


――――――――――――――



(………………結界が破られても出にくいよう、強度を調整してはいたが…………運が俺等を味方したか)


海はそう思いながら、菊理がいる方向を見つめる


菊理から出た糸は月彦達を覆い、まるで繭のようになっていた


「後はあんた頼みだ菊理……この世界の明暗はあんたにかかってんぞ」


海は低く呟き、祈るように巨体な繭を見つめていた



――――――――――――――



そして―――

気が付けば菊理は見覚えのある暗闇の世界に来ていた


「――――もしかして寿美さんの時の同じような精神世界に来たのかな?」


上下左右、黒一色に塗りつぶされた辺りを見渡していると、後ろから鳴き声が聞こえた


「きゅう!」


「!!福ちゃん!」


そこには福が佇んでいた


「どうして―――ってもしかして共有の括り紐で繋がれているから?」


「きゅ!」


福は菊理の疑問を肯定するように短く鳴く


「でも1人より心細くなくて良いや。よし、月彦さんを見つけに行こう」


そう言い菊理と福は歩みを始めた


――しかし、どれだけ歩みを進めても、景色は変わることは無く、進んでいる感覚がまるで無い


「やっぱり真っ暗で何もない……福ちゃんは何処に月彦さんがいるのか知ってる?」


「きゅう」


福は申し訳無さそうに首を横に振り答えた


「んー…知らないかぁ」



菊理が困ったように眉を下げた、その時だった


『おや……何故ここに余所者が侵入しているのだ?』


「!?」


何処からか低く響く声が聞こえ、思わず立ち止まる


『黄泉人と……神獣か。貴様ら何用だ?』


暗闇から人型の『何か』がゆっくり姿を現し始めた


二足歩行ではあるが、筋肉は異常に発達し、肌の色は紫と黒が混じり合った色をした化け物だった


黒目は金色に輝き、口は裂けているかのように大きかった


「あなたは―――」


菊理が思わず息を呑んだ時だった


「きゅう!きゅう!」


隣にいた福が、何かを訴えるように激しく鳴き始めた


「どうしたの福ちゃ―――」


異変に気付いた菊理は、化け物の姿を見て目を大きく見開いた


「!!月彦さん!」


化け物の胸の辺りに取り込まれたかのように月彦が化け物と融合されていたのだ

意識は無く、まるで人形のように動かない


『………なんだ。此奴の知り合いか?だがもう遅い。此奴の身体は我のモノよ』


「あなた……一体」


恐る恐る問いかける菊理に、化け物は口を歪め答えた


『我は炎獄(えんごく)。賽河家と契りを結んだ穢神だ』

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