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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第53話 作戦決行

椿の報告により、黄急遽泉守人と隼人隊は即座に動き出した


街のあちこちでは隊員たちが連携を取りながら、被害を最小限に抑える為、一般市民の避難誘導を行なっていた


「焦らないで!慌てずゆっくり歩いてください!」


隊員の呼びかけが響きわたる中、人々は列をなして歩みを進める


すると一般市民の1人が何かに気付いた


「……おい、アレなんだ?」


男の震えた声につられ、周囲の視線が一斉にその指先の先へと向けられる


指差した方向には、黒い瘴気を纏い飛ぶ、禍々しい『何か』が現れていた―――


―――――――――


同じ頃―――


海・幸兄弟は作戦決行地点にいた


風は止み、空気は重く淀み、まるでこの場だけが世界から切り離されたかのような静寂が広がっている


するとそこに、黒い瘴気を漂わせ、かつて賽河月彦と呼ばれていた存在が上空に現れた


「おい、なんだありゃ?賽河はあんなバケモンみてぇな見た目だったか?」


海は空を見上げ眉をひそめる


それは人型ではあるが巨体で、肌の色は黒と紫で染まったような色になり、顔は辛うじて以前の彼の顔を保っているが、それも最早、ただ底知れぬ禍々しさだけが張り付いている


「穢鬼に乗っ取られたとの事だから、この様な見た目になってしまったのだろう。賽河は穢鬼というよりは、穢神に近い存在に変わってしまったのだと思う」


「マジかよ……こんなん救えねぇだろうよ」


海は吐き捨てるように言いながらも、目の前に迫ってくる賽河の前に立った

それに並ぶかのように、幸を隣に立つ


「だが、やるしか無い………始めるぞ」


その言葉と共に、海は持っていた銃を賽河に向けると、それを発砲させた


「オラァ!バケモンこっちに来い!」


敢えて大声を張り上げ、賽河を挑発させると、賽河はゆっくりと進行方向を変え、兄弟の元に近付いていく


「兄者!無茶はしないように!」


「分かってる!」


2人は風のように駆けながらやり取りを交わすと、目的地に着く


「―――よし!やるぞ兄者!」


「おう!」


2人は息を揃え、手印を手早く結ぶと、地に手を付いた


すると地面に描かれた紋様が一斉に輝き、不可視の壁が空間を閉じる

黒い巨体を中心に、完全に隔離された結界が形成された



(――――結界での閉じ込めは成功した!後は―――)


幸はチラリと結界内にいる嗣臣達を見る


「頼みましたよ………!比良坂様、大神様……!」


こうして一か八かの、月彦救済作戦は決行されたのだった


――――――――――――――


その頃、結界の中では、嗣臣と道之が完全に変わってしまった月彦だった存在と対峙していた


「月彦………」


変わり果てたかつての友人の姿に、嗣臣は眉をひそめる


「世界ヲ………常世ニ……………」


月彦だった存在は何かを呟きながら、虚ろな視線を向けている


「完全に正気を失っちまったか………」


「ああ。ならば俺達で食い止めねばならん。これ以上、月彦が誤った道に進まぬよう」


そう言って2人は構えた


「全テヲ………闇ニ……染メル………ッ!」


その瞬間、月彦は地面を砕きながら、一直線に二人へと襲いかかる。

嗣臣と道之は互いに視線を交わすと、寸分の狂いもなく左右へ跳んだ


「道之!頼む!」


「おうよ!」


短く返事を返すと、道之は腕に雷を纏いながら、一撃を食らわせる


「―――はぁっ!」


「グウウウウウウウウウッ!」


雷撃をくらい、月彦は唸り声をあげながら、少し身を屈める


2人は間髪入れずに攻撃を仕掛ける


「嗣臣!やれ!」


道之が指示すると、嗣臣は手をかざす

その足元から影が蠢き、鋭く形を変えていく


「―――ふんっ!」


手を振り上げると、影が鎌鼬の刃のように月彦に襲いかかる


「グアアァァァァァァァァァァ!」


避ける間もなく直撃する攻撃に、月彦は苦痛な叫び声を上げる


「よし!いいぞ!このまま畳み掛け――――」


道之がほんの少し勝機を見出していた―――その時だった


黒い影が閃いたかと思うと、月彦の腕が振り抜かれていた


そして鋭い一撃が、道之を容赦なく斬り刻んだ


「道之!!」


道之は無情にも地面に転がり落ちる


「ぐっ……!痛てぇな畜生………!」


すると今度は嗣臣目がけて攻撃を仕掛けてきた


「――――っ!」


既の所で避け、再び影の攻撃を当てようと手をかざした――――しかし


それを上回る速さで、月彦の蹴りが嗣臣の身体に入った


「がぁっ!!」


嗣臣は勢い良く地面に叩きつけられた


「嗣臣!!」


嗣臣が目線を上げると、目の前には月彦がいた


しかし戦闘不能だと判断したのか、月彦はくるりと背を向け、外へと歩き出す


「―――つ、月……彦………」


掠れた声で呼び止める声に、月彦は思わず振り向いた


「待て……お前は……そちらに行くな………」


「…………哀レナリ。黄泉人」


そう呟くと、月彦は嗣臣の背中を思い切り踏みつけた


「がっ!!」


嗣臣が動かなくなった事を確認すると、月彦は再び歩みを進めた


そして結界に触ると、それをこじ開けるように押し広げだした


「我ハ……世界ヲ……黒ニ………」


メリメリと音を立てながら、結界は今にもこじ開けられそうになる


「結界が!兄者!」


「んな事分かってんだよ!」


兄弟は必死で食い止めようと抵抗する

しかし――――


(だがバケモンの力が強すぎんだ――――!)


圧倒的な力がそれを上回っていたのだ


すると兄弟の努力も虚しく、結界に穴が空けられた


月彦がその穴から抜け出そうと足をかけた―――――その時だった


「――――――行け!菊理!今だ!」


倒れていた嗣臣が渾身の力を振り絞るように、声を上げた


「――――!?」


嗣臣の叫びに、皆一斉に結界の外へと視線が向けられる


そして、そこには―――――



「―――はい!」


福の背中に乗り、素早く月彦との距離を詰めようとしている、菊理の姿だった


「速度を落とすな!そのまま―――そのまま月彦を捕らえろ!」


嗣臣の叫びと同時に、菊理は手に持っていた短剣を、月彦に振り落とす―――


括り人としての役割を今、彼女は果たすべく、脅威に立ち向かう――――

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