第46話 代償
「共有の括り紐……ですか?それはどういった物なんですか?」
菊理がやや緊張気味に、おずおずと尋ねると、幸は静かに答えた
「力を操れる術者とそれを補う補佐役にその紐を結ぶと、受け切れない霊力を補佐に肩代わりしてもらう事が出来るのです。それがあれば菊理様は強大な力を使っても命が脅かされる事はなくなる」
「しかしその補佐役は誰がやるんだ?」
道之が素朴な疑問を投げかけると、幸は外に視線を移した
「菊理様はもう既に適任の者を側に従えているではありませんか」
幸の視線の先に映っていたのは、縁側でくつろいでいる福だった
治療を受け、疲れ眠っている天鬼に寄り添うように、福が縁側に座っている
「え……?それって、もしかして……」
「………福か」
菊理が驚いたように目を丸くし、隣にいた嗣臣も、少し意外そうに福の名を口にした
「きゅ?」
皆の視線が急に集まり、福は不思議そうに首をかしげた
「そう、菊理様の従えている神獣が、菊理様の受ける霊力を肩代わりしてくれるのです」
「でも、福ちゃんが私の力を受けて影響はないの?」
「それは心配ありません。ですが………」
幸は少し間を空けると、少し言いづらそうに言葉を続けた
「共有の括り紐を使っても、菊理様への代償はあります」
「え……」
突然の告知に、菊理は言葉を失う
横にいる嗣臣も、険しい表情を浮かべ尋ねた
「どういう事だ?先程命を犠牲にする必要はないと聞いたが?」
「確かに命を犠牲にする事は確実にありません。ですが、代償として菊理様の『何か』が失われる事にはなります」
「何か、って……なんだよそりゃ?」
曖昧な言葉に道之が思わず踏み込む
「ハッキリしたことは申し上げられません。過去に存在した括り人達の手記を見ると、ある者は『視力』を、またある者は『記憶』を代償として取られたと記されています。何が代償になるのかは、我々も断言できないのです。ただ命を代償とする事はない、それだけははっきりと明言できるのです」
「いや、命取らなきゃ良いってもんでもねぇだろ」
「道之の言う通りだ。生贄のように捧げられる菊理の身にもなってみろ」
若干苛立ちをあらわにする2人に、今まで黙っていた海が、苛立ちをあらわにしながら叫んだ
「だー!!もう我儘かよてめぇら!この嫁の一部が犠牲になるのと、世界全員が犠牲になるの、どっちがマシかって言ったら前者だろうよ!」
その瞬間、空気が一瞬で冷え込んだ
見ると嗣臣の顔が一気に険しい物へと変わっていた
「貴様……心というものが無いのか」
「ああ?やんのか?俺は構わねぇよ?」
一触即発の雰囲気になった、その時―――
「ま………待ってください!」
菊理が意を決して叫んだ
「あの……やります!私!何かを犠牲にしてもいいから、福ちゃんと一緒に、やります!」
「菊理………」
菊理の決意に、嗣臣の瞳が揺れた
「菊理、良いのか?もしかしたら、嗣臣の事も全部忘れちまうかもしれねぇぞ?」
道之が心配そうに確認すると、菊理は静かに頷いた
「……はい。それが私に出来ることなら、やります。福ちゃんも、協力してくれる?」
「きゅ!」
福の元気で可愛らしい返事に、菊理の表情が緩んだ
「はっ!なら決まりだな。明日にでもコイツらには天界に出向いて―――」
「ただ!」
海が話をまとめようとしたその時、遮るように菊理が物申した
そこには並々ならぬ強い意思が宿っていた
「ただ、条件があります。それを飲み込んでくれたら、私と福ちゃんはあなた達に協力します」




